約 3,371,771 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2560.html
あってはならない惨劇から半日もの間、俺は一歩も動けずただじっと座っていることしかできなかった。 俺が読んでいた国木田のノートは全部偽物? それどころか、俺の妄想にすぎなかってのか? だが、あの正体不明のノートのおかげでそれが現実になり、古泉たちの存在まで書き換えてしまった。 そして、俺が作り出した妄想で俺が悪の組織に仕立て上げた機関の人たちを俺の手で皆殺しにしてしまった。 「いつまでそうやっているつもり?」 力なく自動車道の縁石に座り込んでいる俺の隣には、ずっと朝倉がいた。座りもせずにただただ優しげな笑みを浮かべ 俺をじっと見下ろしている。 俺は力なく路面を見つめたまま、 「……何もする気が起きないんだよ」 「でも、何もしないからといってこの現実は変わらないわよ」 朝倉の台詞は陳腐にすら思えるほど定番なものに感じた。その通りだ。何もしないからといって何が変わるわけもない。 だが…… 「どうしろってんだよ……! 死んだ人間はもう生き返らなねえんだぞ! こんな……こんなことをやらかして どの面下げてハルヒたちのところにいけって言うんだ!」 絞り上げれられたような声が口から吐き出た。そうだ。もうどうしようもない。どうにもならない…… 「ごめんなさい……」 ここに来て朝倉の声が変わった。今までのにこやかなものとはうってかわり、悲痛に満ちたものに変化している。 俺はすっと頭を上げて、朝倉を見た。そこには初めて見るような悲しげな表情を浮かべた彼女の顔があった。 「さっきはごめんなさい」 朝倉は謝罪を続けるが、なぜ謝る? 「思わずあなたが悪いように責めちゃったから。少し考えてみたけど、やっぱりあなたは悪くないわ」 「安っぽい同情なんて止めてくれ。そんなことをされても虚しくなるだけだ……」 「いいえ、これは重要なことなの」 そう言うと朝倉はすっとしゃがみ込んで俺の背後に回り、ささやくように言葉を続ける。 「あなたは悪くないわ。やったのはあのノートをあなたに渡した人よ。何の目的があってやったのかは知らないけど、 あなたを陥れようとしていたことは確実だわ」 「だが、いくら誘導されても俺がみんなを信じ切れなかったことは確かなんだよ! あんな妄言なんて信じずに まず古泉たちに一言相談すれば良かったんだ」 俺は頭を埋め尽くす後悔の念に耐えられなくなり、手で顔を覆う。 少し考えればわかったことだった。最初に機関にあのノートを見せるなというのは、 国木田に対する信頼もあったから否定することは難しかったかも知れない。だが、内容は今考えれば明らかにおかしい。 そもそもなぜ回想録のように今までのことを振り返る形式で書かれている? そんな重要な告発文なら とっとと結論を書いておくはずだ。理由は簡単。あの時俺の頭には、国木田がどうして、どうやって機関に入ったのかを 知りたい願望があった。だから、あのノートの内容を裏で操作していた奴は、それを叶えるように回想録のような形式にした。 俺は自分が知りたいという願望が忠実に再現されていたため、その内容に全く違和感を憶えていなかった。 そして、次に決定的に不自然だったのがページからページに飛ぶ際だ。まれに続きが気になるような切れ方をしていたが、 その次のページには俺が望んだとおりの内容が書かれていた。あれが知りたい、これはこうだったんじゃないか―― そう言った要求や想像に的確に答えている。考えればすぐにわかったことだ。 それなのに俺はまるで何も考えず、その内容をただ受け入れた。 その時は良いと思っても、あとで見返せばとんでもなく問題のある行為だった、なんていう話は日常ではよく見かける。 俺はこの重要な局面でそれを犯してしまったんだ。 「それは違うわ。そもそも、あんなノートを使ってあなたの猜疑心を煽るなんて言うことがなければ、 こんな事にはならなかったのよ? 色々条件が整えば、誰でもつい不安に思ったりしちゃう。 大抵の場合は、それは時間が進んで別の事実に付き合わせれば、ただの妄想に過ぎないって解消されるわ。 でもね、このノートは徹底的にあなたを煽り続けたの。不安に不安を募らせて、あまつさえ現実へ介入さえした。 だから、全てに置いて矛盾が発生しなかった。こんなことは第3者の悪意がなければ成り立たない話よ。 はっきりと言えるわ、あなたのせいじゃないって」 「だが……やっちまったことには変わりがないんだよ。もうどうしようも……」 ここで朝倉はすっと俺の背中に抱きついてきた。そして、さらに耳元でささやき始める。 「自分のミスが許せないのね。でもね、こんな理不尽な話があると思う? 自分のせいじゃないのに、とんでもなく大きい罪を 着せられてしまう。やった本人に復讐はできるけど、だからといって起きてしまったことが変わる訳じゃない。 あなたはそんな不合理が許せる?」 「それが現実って奴だ。一度やってしまったことが消えるなんて言うことはあり得ない」 「でも、その方法が一つだけ存在していると言ったらどうする?」 朝倉の言葉に、俺ははっと顔を上げた。俺のミスが全部無かったことになる? バカ言うな。そんなことがあるわけがない。 だが、朝倉はしゃがんだまま俺の前に立ち、両手で俺の方をなでるようにつかむと、 「あるわ。一つだけね。そして、その方法をあなたは知っている……」 俺を見つめている朝倉の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。そんな方法が存在していて、俺が知っている? この俺の失態を無かったことにできる方法は一つ。死んだ古泉たちを生き返らせるぐらいしかないぞ。 そんなことはいくら望んでも適うわけが――いや、ある。確かにある。 「……あのノートだ! あそこに俺が殺してしまった人たちが生き返るように書けば――」 「それは無理。少なくともあなたが望むようなことにはならないわ」 「なんでだ! あそこに書いたものは全て現実になるんだろ? なら生き返れと書けば生き返るはずだっ!」 つばを飛ばして力説する俺だったが、朝倉は顔を背けることもなく、ゆっくりと首を振って、 「有機生命体の生存活動を再開することは可能だと思う。でも、それでできあがるのはただ生きているだけで意思のかけらもない ただのタンパク質の固まりのようなものだけよ。記憶、感情、身体的構造……あなたはそれを全て知っている? それを事細かに表現して、ノートに記さなければ、あなたが望んだ人形ができあがるだけだわ」 「だったら全部元通りって書けばいいだろ!」 「それもどうかしら? 曖昧な記述では、どういう作用の仕方をするかわからないわよ? それにあのノートの背後に あなたを誘導していた人がいることを忘れないで。そいつの意思で記述の内容をどうにでも書き換えられるんだから。 やってみる? うまくいくかも知れないし、失敗するかも知れない。あなたに任せるわ。でも、そんなリスクのある方法よりも もっと確実な手段をあなたは知っているはずよ。よく考えてみて」 朝倉の問いかけに、俺は再度思考をめぐらせる。確かにノートの使用にはリスクが生じる。 そもそも、あれは俺を陥れるために渡されたものだ。同じ事が再現するだけかも知れない。 そうなれば、もっと良い方法があるならそっちを選択するべきだな。他には――他に―― 次に脳裏に過ぎったのは、過去に遡ってとっととあのノートを破り捨ててしまう方法だ。 そうだ、過去を改ざんしてしまえば惨劇は全てなかったことにできる。それを可能にするためには 朝比奈さんのTPDDがあれば可能だ。そうだ、それでいい。 だが、すぐに問題点が頭に浮かんだ。まず朝比奈さんがTPDDを使わせてくれるのだろうか? いや、大体あれを使うかどうかは、過去の朝比奈さんの言葉から察するに彼女一人の判断ではできない。 未来側の許可がいることになっているようだ。俺のミスを帳消しにしたいから過去に戻りたいなんていって許可が下りるか? 到底、そんなことが認められるとは思えない。それに、過去を変えてしまったら、今こうやって自分の失態に苦しんで 打開策を悩んでいる俺自身はどうなる? 過去が帰られたが故に、俺のいる未来そのものがばっさりと切り捨てられることになる。 それでは何の意味もない。 「――涼宮ハルヒ」 唐突に朝倉の口から飛び出してきた言葉。ハルヒ。長門曰く情報爆発であり、朝比奈さん曰く時間の断層、 古泉に至っては神と呼ぶ存在。そして、それが有している力は何でも作り出せる情報創造能力。 「……そうか。ハルヒか! 確かにこんな閉鎖空間を平気に作り出せる奴だ! あいつの能力をちょっとだけ使わせてもらえば、 こんなことは全部無かったことにできるかも知れない! そうだハルヒだ!」 至った結論に俺は大きく笑い出してしまった。さっきまでの絶望感が嘘のように無くなり、閉鎖空間の灰色も ずっと明るくなっているようにすら感じられる。 「そうよ、涼宮さんの力を使えば何でもできるわ。あなたの理想がすべて叶うのよ。それってすごく素敵な事じゃない? そして、あなたは涼宮さんにとって大きな存在でもある。自覚さえしてくれれば、きっとあなたの言うことも叶えてくれるはずね」 「だが、どうすればいいんだ?」 ここで朝倉は俺の頬から手を離し、立ち上がる。そして、すっと空を見上げると、 「実を言うとね、あたしは涼宮さんの居場所を知っているの。でも、頑固に閉じこもっちゃってて出てこないのよ。 だから、あなたに説得して欲しいのね」 「……わかった。すまないがハルヒのところまで案内してくれ」 「うん、そうする。でね、ちょっとお願いがあるんだけど……」 朝倉はもじもじした仕草を見せつつ、 「あなたが涼宮さんにお願いするときに、あたしの願いも叶えて欲しいの」 「いいぞ、そのくらい。ハルヒに頼んでやるさ」 「ありがとう! じゃあ、これから涼宮さんのところに連れて行ってあげる♪」 そう言って朝倉は軽い足取りで俺の手を引き始めた。そうだ、ハルヒのところへ行こう。そうすれば、全て終わるんだから―― ――目を覚ませ! この大バカ野郎が!―― 「いてっ!」 耳に背後から聞いたことのあるような無いような声が届いたかと思ったら、頭の頂点分を何かで思いっきり殴られた痛みが走る。 ヘルメットを外していたおかげで、何かが頭を直撃したようだ。 俺はあまりの痛みに頭をさすりながら、振り返る。せっかく気分が良くなったってのに、なんだ一体! ……しかし、振り返った瞬間、俺の身体が凍り付いた。なぜならそこには一瞬だけ『俺』がいたように見えたからだ。 すぐに2,3度目をこすって見返す。すると、『俺』の姿はすでに消えていた。幻覚でも見たかと思ったが、 頭の痛みはそのままだ。なんだってんだ。 「どうかしたの?」 俺の異変に気がついたのか、朝倉が不思議そうにこっちを見つめている。俺は痛みの残る部分をさすり、 特に怪我とかをしていないことを確認しつつ、 「いや……何でもねえよ。さあ、とっととハルヒのところへ行こうぜ」 「うん、わかった」 そう言って俺たちはまた歩き出す。しかし、さっきのは何だったんだ? 一瞬俺の姿も見えた気がしたが、 それにその前に浴びせられた罵倒は俺の声じゃなかったか? まさかドッペルゲンガーじゃねえよな。 それとも俺の深層心理の部分で何か引っかかるものがあるとでも言うのだろうか。目を覚ませ。それがその時聞こえた言葉の一つ。 「……目を覚ませ――か」 その台詞はあのノートに騙されている時にかけられるべき言葉だろ。俺の第六感ってのは反応まで半日以上かかるような 鈍い代物なのか? まあいい。もうそんなことなんてどうでもいいんだ。ハルヒの元に行けば全て解決するんだからな。 ――騙されないでっ!―― 今度は可愛らしいが鼓膜が吹っ飛ぶぐらいの声が脳内に響く。 ――お願いですっ! しっかりしてくださぁいっ!―― しばらく声の音量がでかすぎて気がつかなかったが、ようやくわかった。 「……朝比奈さんですか!?」 俺の頭の中の声は間違いなく朝比奈さんのものだった。ああ、2年近く聞いていなかったが、このエンジェルボイスだけは どんなことがあってもわすれるつもりはねえぞ。 ――キョンくんっキョンくんっ! 気を確かにしてくださいぃ! がんばって! しっかり!―― 「いや朝比奈さん! 声をかけてくれるのは大変ありがたいんですが、もうちょっと音量を下げて……。 鼓膜がいかれるどころか、脳内の音声認識回路までふっとんじまいそうですよ!」 ――あ、すみませんっ……ごめんなさいぃぃぃぃぃ―― もうこのふにゃふにゃな対応は朝比奈さんそのものだ。これがまた朝倉のように脳内イメージから作り出されたっていう偽物なら 俺はもう何にも信じられなくなるぞ―― ……唐突に。本当に唐突に気がついた。いや、気がついたと言うよりもあの『目を覚ませ』『しっかりしてくださぁい』の 意味がようやくわかったといった方がいいだろう。ちっ、何で今まで気がつかなかった? 「本当にどうしたの? 大丈夫?」 また朝倉が不思議そうな顔+不安な顔を俺に向けてきていた、 俺は立ち止まったまま朝倉を凝視し 「お前は誰だ?」 その言葉に、朝倉の顔にわずかながら動揺が走った。まるで気が付かれたかと言いたげなように少しだけ引きつっている。 だが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻ると、 「そんなこと知ってどうするの? あたしのことなんかより、今のあなたにはやらなければならないことがあるんじゃない?」 「そうだ。だからこそ、不安要素は全て消し去っておきたいんだよ」 俺の返答に、朝倉は今度ははっきりと失望の表情を浮かべた。そして、視線を下げたまま俺の元に歩いてくる。 ――キョンくん気をつけて。その人は……―― ああ、朝比奈さん。今度は声が小さすぎて聞こえませんよ。何ですか? だが朝比奈さんが再び声をかけるまでに、朝倉が俺の前に立ち、とんでもないバカ力で俺の肩をつかんできた。 「良いから黙って付いてくればいいのよっ!」 俺は驚愕する。今さっきまでは確かに俺の前にいたのは朝倉涼子だった。あの谷口はAA+評価を下すような完璧の美少女。 だが、今俺の肩をつかんでいるのは、全く見たことすらない中年女だった。浴びせてきた声も可愛らしいものとは正反対の すり切れて低い声だ。 ――その人はキョンくんの知っている人ではありません!―― 「何で言うことを聞かない!?」 朝倉――いや、中年女のどす黒い罵声が俺の身体を震わせる。その顔は怒りと悪意で醜くねじ曲がり、異様な殺気を 噴出していた。上から下まで見回しても見たことのない奴だ。俺が生まれてきてから見てきた人の中に こんな奴は全く該当しない。誰なんだ。 「あんたは黙って言うことを聞けばいいっ! そうすれば、仲間を皆殺しにした罪は全部消えるんだよっ! 何の損がある!? まだ何か不満でもあるって言うのかいっ!?」 「――離せこの野郎!」 俺は必死にその中年女引きはがそうとするが、化け物じみた力で俺を押さえつけているらしく全く微動だにしない。 挙げ句の果てに、怒りにまかせて俺の身体を揺さぶり始めると、 「どうしてあたしの邪魔ばかりするっ! どいつもこいつも気にくわない! せっかく優しくしてやったのに、 平然と疑いやがって! 何様のつもりだ、このくそ男が!」 あまりの罵倒ぶりに一瞬頭の中が空っぽになる。何だ、こいつは。今まで変な奴も見たことはあったが、 度を超して狂っているぞ、こいつは。 「ああそうかい! お前がそんな態度を取るってなら、こっちも情けなんてかけないよ! 今すぐお前の思考能力を奪ってあたしの人形に仕立て上げてやる――」 『そうはさせない』 今度は長門の声が俺の頭の中に響いた。ほどなくして、中年女の表情が一変して俺から離れようとするが、 すぐに醜い悲鳴を上げて苦しみ始める。ああ、はっきりいって展開について行けてねえぞ俺は! 「ふざけやがって! 死ね! みんな死んじまえ! どいつもこいつも! みんな消えて無くなればいいのよ! 消えちまえっ!」 そう最期まで汚らしい罵声を上げながら、その中年女の姿が原子分解でもされたかのように光の粉となって消えていく。 そう言えば、長門が朝倉を消滅させた時もあんな状態だったな…… 『時間がない。すぐあなたを別の時間軸へ転移させる』 いや、長門。少しは俺に説明してくれよ。はっきり言って訳がわからなくて、頭の中でA~Zまでの単語がバウンドして 暴れ回っているんだ。 『急がないと彼らがやってくる。すぐに行きたい場所を思い浮かべて』 ああ、もうわかったよ。その代わりあとでゆっくりと事情を聞かせてもらうぞ。ところで、どうやって別の時間に行くんだ? 長門は確か時間移動できないんじゃないのか? 『朝比奈みくるのTPDDを強制起動して使用する。今あなたを危険性のない空間に移動させるにはそれしかない。 同一時間平面上では彼らはすぐに追いかけてくる』 ――ええっ!? ちょちょちょっと待ってくださぁいぃ!―― 朝比奈さんもパニックになっているぞ。やっぱりもうちょっと落ち着いてだな…… 『来た』 「え――」 長門の言葉に反応して、俺は辺りを見回して――腰を抜かした。いつの間二やら、俺の周りを大勢の人間が囲んでいた。 男女年齢性別に関わらず、一応に無表情な顔つきで俺を睨みつけている。明らかに敵意を感じるぞ。 『彼らにあなたを渡すわけにはいかない。彼らはあなたの外見と記憶だけが必要。一度捕まれば、あなたの自我意識は 修復不可能なレベルまで分解される。そうなれば、どれだけ情報操作を行っても元には戻せない』 「うわっわわわっ!」 俺は長門の言葉も耳に入らず、腰を抜かして辺りを逃げ回った。だが、不思議なことにそいつらは立ち止まったまま、 一向に俺の方に近づいて来ようとしない。 ――ほどなくして、まるでラジオの奥底からかすかに聞こえるような小さな物音が耳に届き始める。 じわりじわりとその音量が大きくなっていき、次第に耐えられないほどの騒音とかしてきた。 俺は必死に耳を閉じてそれをシャットダウンしようとするが、直接脳が認識しているせいか全く効果がない。 その騒音は最初はただの意味をなさない雑音だと思っていた。だが、たまに人間の言葉らしきものが混じっていることに 気が付く。それはさっきあの中年女が言っていたのと全く同じようなものだった。 罵倒の応酬。今俺の頭にそんなものがぶつけられている。このままだと長持ちしねえぞ。 『彼らが互いを牽制している。今の内に、あなたを移動させる。早く行きたい場所を思い浮かべて』 ええい、また説明もなく急転直下の展開か! だが、これ以上耳元で騒がれたら本当におかしくなる! やむ得ず、喧噪の中、俺はどこに行きたいか考え始める。色々頭に浮かぶが雑音が邪魔してまとまらねえ。 行きたい場所――会いたい人。長門は完全ではないが、会った。朝比奈さんはさっきようやく声が聞けた。 なら、まだたった一人声を聞けていない人物…… ……その時、俺はハルヒに会いたいと思った。 ◇◇◇◇ 俺はいつの間にか閉じられていた目を開く。 重力を失ったように、俺は暗闇の中を漂っていた。いや、薄暗いものの周りには何かが見える―― 『ちょっとキョン。のどが乾いたからみんなにジュースを買ってきなさい。あ、当然あんたのおごりでね』 『何で俺が』 耳に入ってきた会話。エコーがかかったようにぼやけたものだったが、はっきりと聞き覚えのあるものだった。 俺は目をこすって辺りを確認する。薄暗く霞がかかったみたいに視界が悪い。それに光が屈折しているかのようにゆがんでいる。 何とかそんな視界にようやく慣れてきたころ、俺は今目の前で何が起ころうとしているのか悟った。 待て! そっちに行くな! 必死に叫ぶが、声が出ない。 視線の先には脳天気に自動販売機を目指して歩いている奴がいる。どっからどうみても俺だ。あの日――俺が事故にあった日。 今俺はその時間にいるんだ。だが、どうしてこんな中途半端な状態なんだ? 必死に泳ぐように俺の後を追おうとするが、蹴るものが何もない状態では進みようがない。周りには俺の姿が見えていないのか、 誰一人こっちを気にかける人もいない。 止めなきゃならん。俺が事故に遭うのを阻止できれば、その先に起こる悲劇は全部起きなくなるんだ。 今ここにいる俺が消えるかも知れない? 知ったことか! 目の前で起こることの結末を知っていながら見過ごすほど 落ちぶれちゃいねえ! すぐに身体中を手で探り、何か使えるものがないか探す。しかし、使えそうなものは何もなかった。 このままではあと数十秒で俺が盛大にはねられるというのに、何もできずにただ見ているだけなんてまっぴらゴメンだ。 俺はふと思い出す。靴を脱ぎかけの状態にし、目の前を歩くの俺の反対方向へ蹴り飛ばした。すると思った通りに 反作用が発生して、ゆっくりと俺の身体が流れるように動き出す。よしいいぞ。このまま俺の背中を捕まえてやる。 ゆっくりと移動し、俺の背中に迫る。幸いまだ信号待ちの状態だ。このまま手を伸ばせば―― 『邪魔をするな』 衝撃を伴った大勢の声が辺りに響く。俺は一瞬身構えて、辺りを見回した。 誰もいない――いや違う! 俺の方を見つめている人たちがいる。歩道を歩いている老人、公園のベンチに座っている青年、 自動車に乗るOL、自転車に乗ったまま立ち止まっている女子学生……周りを歩く一般人たちの中にポツンポツンと 俺の存在に気が付いているように見ている人がいる。 ――瞬間、俺は気が付いた。目の前にいた俺の背中が横断歩道を歩き始めていることに。 待て! 進むな! それ以上進むと…… そして、はっきりと目撃した。目の前で俺がトラックに轢かれる瞬間をだ。確かに一瞬俺の身体はバラバラになっていた。 しかし、すぐにビデオの逆再生のように復元される。振り返れば、ハルヒが手を伸ばしてこっちに走ってきていた。 やはり、ハルヒが俺の傷を癒していたのか? トラックはすぐにバランスを崩して、近くの電柱に突っ込んだ。激しい衝突音が耳を貫き、ほどなくしてクラクションの音が 虚しく鳴り続けるようになる。 『キョン! キョン!』 ハルヒがすぐに路上に倒れたままぴくりとも動かない俺のそばに駆け寄った。続いて、朝比奈さん、長門、古泉も真っ青な顔で 俺の様子をうかがう。 古泉は思い出したように携帯電話を取り出すと何やら話し始めた。おそらく救急車を呼んでいるんだろう。 朝比奈さんは泣きじゃくりながら俺への呼びかけを続けている。一方の長門は、俺の身体に何も異変がないことを察知したのだろう 少し安心したような――表情には出していないがそんな雰囲気を見せながら、辺りの様子をうかがっていた。 そこで思い出す。さっき俺を見ていた連中を再度見回すと、今度は倒れている俺辺りを全員で見つめていた。 こいつらはいったい何なんだ? 一方の長門も全身のオーラを一変させて、強い警戒感をあらわにしている。 と、そこで見つめたまま動かなかった自転車に乗った女子学生が無表情から心配そうな表情に変化させて、 俺のそばに寄ってきた。どうやら身を案じているようだったが、それをすぐに長門が遮る。 『近寄らないで。重傷のおそれがある。専門知識を持った人以外は触れない方がいい』 その言葉に、女子学生は納得したような表情を浮かべたが、そいつが軽く舌打ちしたのを俺は見逃さなかった。 長門の言葉を聞いたのか、古泉がハルヒと朝比奈さんを俺から引き離し始める。二人は完全に腰を抜かしてしまっているようで、 もう何も言えずに路上に座り込んでいた。 ほどなくして、救急車がたどり着き、救急隊員が俺の様態を調べ始める。一方の長門は、やはり殺気の連中が気になるのか、 俺から少し離れてその周りをグルグル回っていた。 ――だが、長門の死角になったあたりで、あろうことか救急隊員の一人が妙な行動を取った。俺の額に手を当てて 何かをしている。明らかに医療行為とは違う。なぜなら、そいつの顔が狂気に染まった笑みを浮かべているからだ。 だが、長門は周りに警戒心を見せているために、それには気が付いていなかった。 やがて、担架に乗せられた俺は救急車に運び込まれ、ハルヒたちも乗り込んだ。そのまま、病院に向けて走り出す。 野次馬がそのまま残って見ている中、俺たちを見ていた連中はまるで何も起きなかったように、その場を去っていった。 ちくしょう……せっかく大チャンスだったってのに、何もできずに終わるなんて……! 後悔と自分の無力さを嘆くが、どうにもならない。これからどうする? まだ別の場所に移動できるのか? このまま浮遊したままなんてゴメンだ。 俺はまた願い始める…… ◇◇◇◇ 「ぐはっ!」 強烈な落下感とともに、俺の背中に強烈な刺激が展開した。一瞬呼吸が止まり、全身に震えが走る。 俺はしばらくそれにもだえていたが、ほどなく寝ころんだまま手で周りを探り始めた。どうやら仰向けに倒れているらしい。 手のひらに床のような冷たい感触が感じられる。とりあえず、海の上とか水中とか火の中とか、地獄巡りな場所ではなさそうだ。 ゆっくりと目を開けると、見覚えのある天井と蛍光灯が目に入った。いや、見覚えがあるどころか懐かしいと表現した方がいい。 続いて身体を起こして、辺りを見回す。部屋の中央に置かれたテーブル、古めかしい黒板、脇には朝比奈さんのコスプレ衣装、 ノートパソコンの山…… 次に目に入ったものに、俺は目を疑った。『部室』にある窓、そしてその前に置かれている『団長席』とパソコン。 そして、そこに座って唖然とした表情を浮かべるSOS団団長の涼宮ハルヒの姿…… 「キョン!?」 ハルヒは俺の姿を見るや否や、椅子をけっ飛ばして俺の元に駆け寄る。ハルヒ? ハルヒなのか? 本当に? 「ちょっとどうしたのよ……っていうか、あんた病院で眠っているんじゃなかったの!? でも何よ、その軍隊みたいな格好は!」 「い、いや、ちょっと待て! 俺も何が何だかわからなくて混乱――」 この時、俺の目がハルヒの視線に捕まった。まあ、眼力パワーはもの凄いハルヒなわけだから、ここで頬を赤らめて 視線を外したりはしないし、そもそもそんなことは期待していないんだが。代わりに俺の胃の辺りから 今までに感じたことの無いような感覚囲み上がってくる。 我慢しておくべきか? いや、周りには誰もいないしな、そんな必要はないだろ。 だが、俺にだってプライドがあるんだ。相手はあのハルヒだぞ? いいのか? 自分の気持ちに素直になったって良いじゃないか。こんな時ぐらいは。 えーと、何で俺は問答をしているんだ? いいじゃねえか。ここでやらなかったら、次にいつ逢えるか―― いつ逢えるかわからないんだ! 「ハルヒっ!」 俺はハルヒに抱きついた。強く強く抱きしめる。 唐突な行動に、ハルヒは当然ながら、 「ちょ、ちょっと何すんのよキョン! 放しなさいってば!」 「……すまん! 少しだけ! 少しだけこのままでいさせてくれ……!」 懇願する俺にハルヒは観念したのか、代わりに俺の背中をなで始め、 「まあ……いいわ。何があったのか知らないけど、団員が辛いときは団長がそれを受け止めてあげなきゃね」 「すまねえ……すまねえ……」 俺は謝罪の言葉を続けながら、ハルヒを抱きしめ続ける。離したくなかった。ずっとこのままつなぎ止めておきたかった。 でなければ、次いつ逢えるかわからないから。 「ちょっと休みなさい。あんた、すごく疲れているみたいだからね。ふふっ、大丈夫よ。ずっとそばにいて上げるから……」 ハルヒの言うとおり、俺には相当な疲労がたまっていたのだろう。ほどなくして俺は深い眠りに落ちていった。 ◇◇◇◇ どのくらい眠っただろうか。俺は自分が長時間眠っていたことを自覚したとたん、がばっと起き上がる。 そして、辺りをきょろきょろ見回し、状況確認に努める。 辺りはすっかり暗くなり、月明かりだけがSOS団部室を照らしていた。そして、その中をハルヒは団長席に 突っ伏するようにすーすーと寝息を立てて眠っている。俺のためにずっと残っていてくれたのか? 俺はとりあえずハルヒを起こさないように、状況確認を再開した。まず今の日付だ。カレンダーをのぞくと、 どうやら俺が事故に遭ってからちょうど14日目になる。ん、そういや、古泉から聞いた説明だと、 俺が昏睡状態になってから一週間後、ハルヒはSOS団の部室に閉じこもったと言っていた。ならハルヒはもうここにこもって 一週間が経過していると言うことになるが……。 ちょっと待て。そして、ハルヒが閉じこもってから一週間後に確か全世界で神人が大量発生したはずじゃなかったか? そうなるともうすぐそれが起きるということになる。 俺は時計を見た。時刻は22時過ぎ。残念ながら神人発生の詳しい時刻までは聞いていなかったが、俺が昏睡状態になってから 2週間後に大惨事が発生したことは確実だ。そうなると、近々それが発生すると言うことになる。 すぐにハルヒを起こそうとして、窓際に経って気が付く。外に誰かがいる。それも校庭、向かい側の校舎の廊下、屋上と ありとあらゆる場所に人がいて、そこから不気味な視線を向けられている。なんだったんだ。 とにかくハルヒを起こさなくてはならない。俺は軽くハルヒの背中を揺さぶる。 「……んあ?」 間の抜けた声を上げるが、目の前に俺の顔があることがわかるとすぐに口に付いたよだれを拭いて、 「ちょっと! なに人の寝顔を見てんのよっ!」 「しっ! 静かにしろって!」 俺は怒鳴り始めたハルヒの口を押さえる。しばらく抗議の声を上げて口をもぐもぐさせていたが、 窓の外を指さして外にいる連中の存在を知らせると、すぐに頷いて黙った。 ハルヒが大人しくなったことを確認すると、俺は手をどけて、 「外にいる連中にも憶えがあるか?」 そう俺たちを監視するように見ている連中を指さす。ハルヒはかなり不安そうな表情を浮かべて、 「……あんたが事故に遭ってから何度か見かけているわ。最初はあたしを遠くから眺めている程度だったけど、 一週間前ぐらいになるとエスカレートしてきて、自宅の部屋まで現れたわ。その時は叫んだらすぐに消えたけど、 それ以降ずっとあたしの周りをまとわりついてくるの。それも一人じゃない。すごく大勢」 「今、外にいる連中はそいつらってことか」 ハルヒは恐る恐る外を見て、 「うん。あいつらどういうわけか部室の中には入ってこないの。だから、あたし一週間前からずっと閉じこもったっきり」 「長門や朝比奈さんも部室に入れていないのか?」 「あいつら、みんなの後ろにくっついて入ってこようとしたのよ」 ぞっとする話だ。自宅の寝室まで上がり込んでくるなんてただの犯罪者のように見えるが、騒いだら消える? まるで幽霊じゃないか。大体、何で教師たちは気が付いていない? ハルヒはふるふると首を振って、 「わかんない。何度も学校側や警察に訴えたわ。でも、あたしには見えるのに写真やカメラには全く写らないの。 みくるちゃんたちも気が付いていないみたい。そのせいで、幻覚を見ているんだろうと相手にしてくれなくて」 そこでハルヒははっと気が付いたらしく、 「キョン! あんたにはあいつらが見えるの!?」 「ああ……不愉快だがばっちり視線に捉えている」 そう言いながら、外を一瞥する。はっきりとはわからないが、あの棒立ちのような姿を見る限り、俺の事故現場にいたやつらと 同質の連中だろう。あの時は俺を見ているのかと思ったが、本当はハルヒを見ていたのか。だが目的は? ふと、もう一つの事実に気が付く。少し混乱していたせいで記憶は定かではないが、あの棒立ちの様子は 過去にとばされる寸前に俺を囲っていた奴らに雰囲気がそっくりだ? 何モンなんだ一体。 「って、お前一週間もここに閉じこもっているのかよ。その間のメシとかはどうしたんだ?」 「古泉くんが持ってきてくれたわ。ドアの前に置いてもらって、あたしが隙を見て回収してた。トイレもたまにこっそりと出てね。 それでも最近はすぐ扉の前に立っていたりするからうかつに開けられなくて……」 ホラー映画かよ。マジで勘弁してくれ。となると今もドアの外に立っている可能性があるって事だ。 それじゃ、うかつに出れやしねえ。 俺は再度連中の姿を確認するべく、外を眺める。と、急にハルヒが俺の手を握ってきて、 「……キョン。あんたキョンよね? あたしにはわかる。別人じゃない。正真正銘のキョン本人だわ。でも、キョンは病院で 眠っているはずよ。どういう事か説明して」 当然の疑問だな。一週間籠城していたハルヒの前に、病院で寝ているはずの俺が、迷彩服姿で出現したんだ。 おかしいと思わない方がどうかしている。 俺は返答に困ってしまった。どう答えればいいのか、自分でもわからないんだからしょうがない。 あの閉鎖空間の一件、さらに今俺たちを囲んでいるの正体。何一つわかりゃしねえんだから。 「……わりい。俺も自分がどうしてここにいるのかさっぱりなんだ」 「そう……」 ハルヒは俺から目をそらす。思えば、さっきからハルヒらしい傍若無人な姿は全く見せていない。外の連中に よっぽど怖い目に遭わされたのだろう。そう思うと、俺に激しい怒りが立ちこめてくる。 「今俺がはっきりと断言できるのは、ハルヒ、俺はお前の味方だ。例えどんな状況になろうともな」 「…………!」 そんな俺の言葉が予想外のものだったのか、ハルヒは何かこみ上げてくるものがあったらしく顔を紅潮させていた。 が、すぐに顔を振ってそれを振り払うように、 「当然よ当然! 団員は団長のためにきりきり働くの! それが社会や組織の原理ってもんだわ!」 腕を組んでえらそうに言ってくれるよ全く。でも……その方がハルヒらしいけどな。 ◇◇◇◇ 午前1時。0時に何かが起きるのではと緊迫していたが、一向にあの白い化け物が現れる気配はない。ハルヒに異常もない。 退屈そうにネットをやっているぐらいだ。 ――気が付いたときには遅かった。異変はとっくに起こっていたのだ。 俺がようやくそれに気が付いたのは、外の連中の様子をうかがった時だ。 「…………?」 見れば、いつの間にやら取り囲んでいた連中の姿が無い。さっきまでが嘘のように無人になっている。 「――きゃあ!」 次に起こったのはハルヒの悲鳴だ。俺があわてて駆け寄ると、パソコンの液晶ディスプレイの画面が渦を巻くように ゆがんでいる。ただの故障かと思ったが、そんなものではないことがすぐにわかった。何せ、ディスプレイが盛り上がり、 そこから何かが出てこようとし始めたからだ。 俺はすぐにディスプレイの電源を引っこ抜くが、一向に電源が落ちない。次第に盛り上がってくるディスプレイが 人の顔のようになってきていることに気が付いた。まさか、パソコンのネット回線を介して侵入してきやがったのか!? すぐにそのディスプレイを壁に叩きつけて破壊する。ぱちぱちとスパークする音がなり、ディスプレイの電源が落ちた。 盛りだしていた人の形をした物体も消えていく。 「今までネットをやっていて大丈夫だったのか!?」 「き、昨日までは何にも起きてなかった……ひっ!」 ハルヒの短い悲鳴。今度はなんだと思えば、ホラー映画のワンシーンのように部室の扉がゆっくりと開き始めている。 バカな。ちゃんと鍵はかけておいたはずだぞ。 しかし、そんな俺の抗議も無視して扉は完全に開いてしまった。そこには黒いセーラー服を纏った少女が一人立っている。 やはり見たことのない奴だ。 俺は何か武器になるものはないかと辺りを回し、掃除用具入れからモップを取り出して構えた。 「来るな! 今すぐ出て行け! 怪我してもしらねえぞ!」 そうモップを振り回して威嚇してみるが、完全にそれを無視してその少女は部屋の中に入ってきた。 さらにその後に続くように大勢の人――子供から老人まで様々――が部室内に入ってくる。 多勢に無勢。俺は戦っても相手にならないと思い、ハルヒの手を引いて窓際まで下がる。仕方がない。ここは二階だが、 飛び降りれないこともない。一か八か飛び降りるしか…… しかし、その考えはすぐに打ち砕かれた。バタバタ!と窓が揺さぶられ何事だと振り返ってみて、 ――腰を抜かした。そこには獲物をほしがっている肉食動物のように、人間の顔が大量に窓に押しつけられている。 ぎしぎしと力を込めて今にも窓が破壊されそうだ。一方で出入り口の扉からは次々と連中が流れ込んで来ている。 囲まれちまったぞ。 「何の用だ! とっとと出て行きやがれ!」 俺はモップを振り回して奴らを追い払おうとするが、全く連中は動じない。それどころか、一人の少年があっさりと それを取り上げて部室の脇に投げ捨ててしまった。 じりじりと狭まる包囲網。窓の外は奴らで埋め尽くされ、入り口も溢れかえっている。逃げ場がないのだ。 が、奴らの動きが止まった。窓のきしむ音も聞こえなくなる。今度は何だ―― ――突如上がる悲鳴。言葉に表現できないような絶望的な声を上げ始めたのはハルヒだ。頭を抱えて床を転がり周り 痛みにもだえるかのように泣き声を上げる。 「ハルヒ! どうしたハルヒ! しっかりしろ!」 俺は必死にハルヒを抱きかかえ、落ち着かせようとするが、ハルヒは目もうつろに口からよだれを流して悲鳴を上げ続ける。 このままじゃハルヒがおかしくなっちまう。誰か! 頼む! 誰か助けてくれ! 俺の叫びが通じたのかはわからない。突然、部室の壁が吹っ飛んだ。衝撃にしばらく耐えていたが、 やがてそれが収まったことを感じ取ると、目を開く。 そこには北高のセーラー服を着た長門の姿があった。すぐ横にはおびえる朝比奈さんの姿もある。 「遅くなった」 「だ、だいじょうぶですかぁ!?」 二人の声。だが、久しぶりの再会に感動している場合ではない。ハルヒはもう声すら上げられない状態になっているんだ。 「長門! 朝比奈さん! 頼む――ハルヒを助けてくれ! お願いだ!」 俺の言葉に反応するように、長門が手を振った。するとなんということか。連中の姿が全て消失する。助かった! 全く長門さまさまだ。 が。 「遅かった」 長門の言葉は絶望に満ちていたように感じる。なんだ? 長門が奴らを消し去ってくれたんじゃなかったのか―― 『なぜだ!』 突然起きる脳内ボイス。あの閉鎖空間や事故現場で聞こえたのと同じものだ。もの凄い圧力で俺の全身を揺さぶってくる。 『お前ら邪魔だ!』 『お前こそ邪魔だ!』 『うるさいわね! 無能な連中は消えてよ!』 『なんだとこの野郎!』 『邪魔しないでよ~! お願いだからぁ~』 『くそ野郎!』 『何なのあんたたちは!』 『お願いだ! 一つだけで良い! 頼む!』 『俺以外みんな消えろ!』 洪水のように襲いかかる罵声の嵐。俺は耐えられなくなり床に倒れ込む。だが、そんなことをしている場合ではない。 口を開けたまま完全に意識を失っているハルヒが目の前にいるんだ。助けないと! そこの長門がやってきて、 「すでに涼宮ハルヒの意識の一部分が彼らに浸食された。このままでは全ての意識を奪われる可能性がある」 「何でも良いからハルヒを!」 「わかっている。すぐに自立防御を精神階層に張り巡らせ、これ以上の浸食を防ぐ」 そう言って長門はハルヒの額に手を当ててあの高速呪文を唱え始めた。 その時だった。俺の背中が月明かり以外の何かで照らされていることに気が付く。そして、窓の外にいたのは、 「神……人?」 あの光の巨人。ハルヒのストレスが最高潮になったときに閉鎖空間内で暴れ回る怪物。そいつが閉鎖空間ではないのに 今目の前に生まれ出ようとしている。 「なん……で」 「彼らのストレスが最高潮に達した証。それを解消するべく発生させた」 長門の淡々とした説明に俺は、 「ここは閉鎖空間じゃねえぞ! なんでだ!」 「涼宮ハルヒが閉鎖空間内であれを発生させていた理由は無用な被害を出さないため。だが、涼宮ハルヒの能力を一部奪った彼らは そのような認識を持っていない。自ら以外の有機生命体の死を持ってそれを解消させようとしている」 「ば……!」 冗談ではない。大量殺戮でストレス解消だと! ふざけんな! ハルヒの力をそんなふざけたことに使うんじゃねえ! だが、俺の抗議なんて通じるわけもなく、神人は破壊活動を開始した。俺が知っている神人発生と同じならば 奴らは全世界に発生して暴れているはずだ。 と、長門が急に辺りを見回し始めた。 「これは」 「今度は何だ!?」 「閉鎖空間が発生した。発生させているのは涼宮ハルヒ本人」 「何だと……!?」 最初は何が起きているのかわからなかったが、すぐに理解できた。ハルヒは神人の発生を感じ取り、あわてて閉鎖空間を 発生させて神人を閉じこめようとしているんだ。全ては被害を出さないために。 なんて……奴だよ、ハルヒ。お前はそこまで……! 長門は今度は俺の手を握り、 「あなたはここにいてはいけない。すぐにもとの時間軸へ戻るべき。危険。彼らに利用される」 「目の前でハルヒが苦しみながら戦っているのに、逃げ出せって言うのか!?」 「ここであなたができることは何もない。でも、あなたがいた時間にはできることがある。その時間上のわたしが言っている」 『一時的だが脅威は排除した。もう戻って問題ない』 頭の中に響く長門の声。それは目の前でハルヒの手当をしている長門ではない。閉鎖空間の中で俺の身体を 乗っ取ったときと同じだ。何でここにいる? 『朝比奈みくるのTPDDを再度使用した。ここにも朝比奈みくるがいるので、同じ方法で戻れる』 「だがよ……世界がどうなるかわかっているのに……」 「自分の力を過信しないで」 そう反論してきたのは、ハルヒの手当をしている長門だ。俺の方をじっと見つめている。 「できなくても誰もあなたを責めたりはしない。あなたはあなたができることを確実にするべき」 『そう。そして、元の時間ではあなたを信頼している人たちが待っている』 まさか……古泉たちか!? だが、みんな俺の手で…… 『それは全て欺瞞。全ては彼らがあなたを利用するために手段。全員の無事は確認している』 ……そうか。よかった……よかった……! まだ俺はやり直せる……! 俺はすっとハルヒの両手を握る。 「待っていてくれハルヒ。絶対に迎えに来るからな! 少しだけ――少しだけ辛抱してくれ……!」 続いて、長門と朝比奈さんを交互に見回して、 「長門、朝比奈さん。ハルヒのこと……頼みます!」 「は、はい! がんばります!」 「あなたが来るまで全て対応する。任せて。必ず守ってみせる」 俺はすっと立ち上がり、町を破壊している神人を睨み付ける。何だかしらねえが、これ以上好き放題させねえ。 「長門! 俺を元の時間にもどしてくれ!」 『わかった』 長門の声と同時に、俺の意識が闇へと落ちた…… ~~その5へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/20.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4から 「は?」 と俺は聞き返す。 「なに言ってんだ、おまえ?」 受話器越しにハルヒは答えた。 「なにって……、修学旅行とかで、ほら、男子が女子の部屋に遊びに来たりするじゃない? いわば、ああいう奴よ。深い意味はないわ」 「悪いがハルヒ」 「な、なによ?」 「お前の方に深い意味がなくてもな」と俺は言った「俺にはある」 「ななな、い、意味ってなによ?」 「俺はおまえでなきゃ嫌だ」 「……」 ハルヒは黙った。それもいいだろう。どうせ全部言わなきゃ俺だって止まりそうにない。 「目の前にどえらい美人がいたとする。俺だって健康な男子高校生だし、抱きしめたいし、キスしたいし、押し倒したくなくないけどな、今はお前でないと嫌だ」 「い、今って?」 「お前に出会っちまって、お前を個体識別して、お前とお互いに話して、お互いに思ってることをぶつけあって、こうして一緒にいる今、ってことだ」 再び沈黙。波と波がぶつかり合う音が、えらく近く聞こえる。受話器から鳴っているみたいだ。 「わかったわ」 ハルヒは言った。 「あんたは、どうあってもこっちには来ないということね」 「ハルヒ、お前、いったい何を聞いて……」 「あたしがそっちへ行く。これで文句ないでしょ?」 二つのドアが同時に開く。そこにいるはずの相手を見つめ合う。 先に動いたのはハルヒだった。 さっと、俺の横をすり抜けたと思ったが、ハルヒは俺に左手首をしっかり捕まえていた。 ハルヒに引きずられ、ベランダから外へ、俺たちは夜の浜辺に駆け出た。 コテージの非常灯を除けば、辺りには明かりになるものは何もなかった。 他に明かりがないと、月の光はこんなにも青く明るいのか。 ハルヒに手を引かれて、コテージからの緩やかな坂を、夜の砂の上を走る。 波打ち際まであと数メートルというところに来て、ハルヒは止まって、俺の手首を離して、俺の方を見た。 「とりゃー!」 不意をつかれて、倒される。砂の上に上半身から落ちる。あごを砂にぶつける。痛い。 (辞書の意味で)砂を吐きながら、一応抗議してみる。 「ぺっ、ぺっ! 何すんだよ、ハルヒ!」 「カニばさみ。まずはあたしの一勝ね」 一勝? 勝負? ホワイ? えーい、こいつの思考回路はトレースし切れん。今わかるのは、「おほほ、つかまえてごらんなさい」的な展開はあり得ないってことだけだ。月の光よ、我に武運を! 「もういっちょ、いくわよ。どりゃー!!」 「のあ! いきなりか!」 「一瞬の隙は、戦場では死を意味するわ」 死かよ! そして戦場かよ! 言っててなさけないが、スピード、技の種類にキレ、それに知略(?)に上回るハルヒの絶対的優位が続いたが、ちぎっては投げちぎっては投げしているうちに(つまり俺が繰り返し砂の上に転がる度に)、未曾有にみえたハルヒの体力もいささかの陰りを見せた。やっぱり言ってて情けないが、勝ち続けるには、負け続けることを数倍する体力が必要なのだ。 言い換えれば、ハルヒの目的が「俺との当面の戦いを制すること」であるのに対し、俺の目標は「このもーよーわからん大相撲的シシフォスの労働を終わらせること」だった。つまりは、ハルヒは勝ち続けなければならず、俺はただの一回、こいつにもはっきりわかる形で勝てばいいのだ。それがものすごく難しいのだが。 「へっ、さすがに息があがってるじゃないか、ハルヒ?」 「膝に両手ついてるあんたに……言われたかはないわ」 ないなら作ってでも隙を突くしか、俺に勝ち目はないだろう。 「次で決めるぞ、ハルヒ!!」 「勝手に言ってなさい、キョン!!」 足をめがけてタックルする。むろんフェイクだ。 「ハルヒ、好きだ!!」 ちなみに言葉はフェイクじゃないぞ。 「こ、このバカキョン!!」 俺のタックルを読んでいたハルヒは、軽々と俺の上を飛び越えていく。ただし視野の端に写ったハルヒの顔は真っ赤なトマトだ。 着地するや否や、ハルヒは叫ぶ。 「卑怯者!あんた、そんな言葉まで使って!そうまでして勝ちたいの!?」 「真剣勝負で、自分に一番気合いが入る言葉を叫ぶのは当たり前だろ!」 俺にそんな難しい作戦が思いつける訳もなければ実行できる訳もない。だが、勝算は五分と見た。いくぞ、ハルヒ。 「愛してるわ、キョン!!」 怒声とともに張り手が飛ぶ。顔がよじれる、膝が崩れる。 「言われてみてわかった。すごい諸刃の剣だ」 愛の言葉って。 それを受けて、あの動きか。すごいな、ハルヒ。 「やっぱりバカだったのね、あんた。それに先に倒せば問題なし!」 「その言葉、もらっとくぞ」 「なっ、わ、わ」 膝をついた足も、足首を立てて、死んでいなかった。片膝立ての体勢から、もう一度ハルヒの腰に至近距離からアタック。腕を回して、抱え上げる。渾身の力で。 「こ、こら、離せ、アホキョン! エロキョン!」 「無理だとわかってるが一瞬だけ大人しくしろ。もうちょっとの力しか残ってないんだ。ハルヒ!」 「は、はい!」 「愛してるぞ! 絶対、離さないからな!!」 誓いは、たった2秒で膝から崩れた。体力の限界。緊張の中断。深手の影響。その他諸々。 それでもハルヒをなんとか砂の上に転がし、自分は少し離れたところに放り出した。 砂の上に並んで寝転ぶ二人。 「キョン……生きてるよね? あんなこと言って、死んだらひどいからね」 「……い、生きては……いる」 本当の意味で、砂を吐いたけど。 「……よかった……」 「はあはあ、一応聞いとくが、ハルヒ?」 「はあはあ、なによ?」 「煩悶とした青春はスポーツで昇華! なんて体育会的オチじゃあるまいな」 「バカじゃないの? そっちはもちろん別腹よ」 もちろんかよ! そして別腹かよ! ハルヒは寝転んだまま、右手をずいっと上に、夜空に向かって突き出した。その手の先には、ものすごい数の星の光。 「どう? これであんたとあたしは『ひとつ屋根の下』よ」 「やれやれ……そうだな」 二人はくすくすと笑った。ハルヒの、あまりにハルヒらしい自信たっぷりの言い方を、「いや、それだったら、ここまでしなくても」といった俺のかき消された愚痴のなさけなさを、いや多分その両方を、心のどこかで指差しながら。 相手の手は、すぐ届くところにあった。 指先がまず触れ、互いに絡み合う。手が重なる 腕が互いを引きつけ合う。身を起こす。 二人の顔が近づく。 「待って。キョン、一回つねらせなさい」 「いてて。もう、あちこち痛い! ……何すんだよ?」 「ふん。夢じゃないようね」 「そういうことはな、自分ので確かめろ」 「キスなんかで夢オチでした、なんてたまったもんじゃないわ」 「おい……」 だまってなさいと、ハルヒの口が、口をふさいだ。 「……なあ、母さん」 「なんですか、お父さん?」 「今度は人の多いところに宿とろうな。あいつらが、あまり自然に帰らんように」 その6へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3659.html
1.落下物 早朝サイクリングは第2中継点、つまり光陽園駅前にて終わりを告げる。 実はここまでも結構な上り坂で、ハルヒを乗せて自転車を漕ぐ俺はかなり必死だ。 ハルヒは俺を馬くらいに思ってるのか、「もっと早く漕ぎなさい!」なんて命令しやがる。 それでも毎日律儀に迎えに行っている俺って何なんだろうね。 駅前駐輪場に自転車を停め、そこからはハイキングだ。 いつも通り、ハルヒと他愛もない話をしながら坂を上る。 話題もいつも通りだ。 朝比奈さんのコスプレ衣装、週末の探索の話、SOS団の今後の活動予定、 何故宇宙人が現れないのか、未来人はタイムマシンを発明したのか、超能力ってのは具体的にどういう能力か。 そんなハルヒの話をもっぱら聞き役時々突っ込み役に徹して朝の時間を過ごす。 後半の3つの問題については、むしろ俺の方が語れることが多ってことはもちろん秘密だ。 朝比奈さんの卒業が控えているにもかかわらず、その話題は出さない。 おそらく、不安とか悲しみとかを意識的に避けているのだろう。 いつかは直面しなくてはならないんだけどな。 話はいつも文芸部室まで持ち込んで、教室に移動して朝のHRが始まるまで続く。 同じテーマの話題なのに、毎回違う話が出来るってのは一種の才能だな。 芸人にでもなればいい。俺は笑えんが。 まあでも、そんなハルヒを眺めながら過ごす朝の時間ってのも悪くはないさ。 今日もそんないつも通りの朝だと思っていたのだが── とんでもないことが起こりやがった。 学校に到着して、中庭を歩いているときだった。 正面に見えるのは隣接した中学校で、その向こうは山だ。 住宅開発もここまでだったらしい。つくづくなんて学校に通っているんだ。 その正面に見える山の上に、なにやら光る物体が見えた。 いくら早朝だからって、もう7時にもなるので外はそれなりに明るい。 星が見えるって時間帯ではない。この季節は明けの明星が見えるのか? 何だ? 超新星爆発か!? そう思っている間に、その物体は輝度を増し、あっという間に山の中に姿を消した。 ドォーーーーーン 遠くの方でそんな音が響いた気がした。 突然、しかもあっという間のことにしばらく呆気にとられていた俺は、ハルヒの声で正気に戻った。 「キョン!! 今の見た!? 何なのかしら!!」 100Wの笑顔を俺に向けて聞いてくる。まだ頭が回らずにいた俺は 「わからん」としか言いようがない。 「そうよ、UFOよ!! それしかないわ!! きっと裏山に墜落したのよ!!」 ちょっと待て! UFOだって? そんなわけあるか!! 「キョンも見たでしょ! 間違いないわよ! きっと侵略者ね。運転誤って墜落したのよ!」 UFOの操縦を運転と言うのかどうかという突っ込みはおいといて、とりあえず落ち着け! 「探しに行くわよ!! こんなチャンスは滅多にないんだから!!」 「おい、学校だろ!」 「そんなのどうでもいいわよ! いいからキョンも行く!!」 俺の手を強引に引いて歩き出すハルヒを、俺は何とかとどめた。 「あんな山に行くなら鞄が邪魔だ。登山道もないんだぞ。とりあえず部室に行こう」 果たしてあれがUFOだったのか何だったのか、俺にはさっぱり分からない。 UFOの可能性もある。いや、高い。なんせハルヒだからな。 ハルヒがそろそろ普通の毎日に飽きて何かしやがった可能性がある。 でなきゃあんな近くに落ちるか? しかも、運良く人家のないところだ。出来すぎてる。 何とか長門に連絡できないか? しかしハルヒの目の前では出来ない。 俺が思案していると、ハルヒに怒鳴られた。 「こらぁ! ボサッとしてない! 宇宙人が逃げて行くかもしれないじゃない!」 UFOだったとして、あの速度で落下して宇宙人が無事だとは思えないのだが。 「宇宙人なんだから助かる技術くらいあるでしょ! いいからサッサと行く!!」 部室に行くことだけは何とか同意してくれたハルヒは、俺のネクタイを掴むと走り出した。 何とか鞄を部室に置くことが出来た俺たちは、裏山探検隊を結成することになった。 隊長:涼宮ハルヒ 隊員:俺 以上。 ……無事に帰ることを祈っていてくれ。 「バカ言ってないで、張り切って行くわよ!!!」 ハルヒは部室でご丁寧にも「隊長」と書いた腕章を用意すると直ぐに飛び出して行った。 せめてSOS団が揃ってからにして欲しかったよ。やれやれ。 俺たちが見たのは『山に落ちた』という事実だけだ。 むやみに山に入って見つけられる訳もない。 歩き回っても見つからずそのうち諦めるさ、と思っていた。 いや、見つからないでくれと祈ってさえいた。 しかし、あれだけ派手に落ちたのに誰も騒いでないのは何故だろう。 これこそ、ハルヒの力かもしれない。 自分が第一発見者じゃなきゃ気が済まないだろうからな。 足場の悪い山道──いや、道ですらないな──を上っていく。 下草も刈っておらず、木の枝を避けながら歩くのは非常に骨が折れた。 そんな道を、ハルヒは物ともせずにずんずん進んでいく。 いつぞやの朝比奈さん(みちる)との登山とは大違いだな。 ハルヒなら、ずり落ちて俺が支えてやる何てことは逆立ちして登ったってないだろう。 いや、さすがのハルヒも逆立ちして登山なんて無理か。 「おっかしいわね。UFOが墜落したなら煙くらい上がってても良さそうなんだけど……」 そんなことをブツブツ言いながらも、ハルヒの表情は生き生きとしている。 爛々と輝かせた瞳には、全宇宙の星を内包しているかというくらいだ。 そんなハルヒの横顔を見ながら登山していると 「うわっ」 見事に足を滑らせた。 「あんたなにやってんのよ!」 ハルヒは俺をどやしつけながらもケラケラと笑っていた。 俺の醜態を見てそんないい笑顔するなよ。 あー 制服が泥だらけだぜ、畜生。 しかし、そんなハルヒを見ていると、さっきからの疑念が膨らんで行く。 本当にUFOなのか? お前がやったのか? ハルヒ。 しばらく歩いた後、ありがたいことに前半の疑念は晴れることとなった。 目の前が少し開けた。そんなに広くはない。 その真ん中に、直径2m程のくぼみが出来ていた。木の枝が散乱している。 掘り返されたような土肌は新しい。 そして、そのくぼみの真ん中に、明らかに周りの地質とは異なる黒い石が落ちていた。 「何これ?」 不思議そうな顔をしてハルヒが呟いた。 「おそらく、隕石だ」 果たして、人間が隕石の落下を目撃し、それを発見してしまう確率ってのは一体どれくらいのもんだろう。 宝くじ1等当たるより低い気がするぞ。 UFOの墜落を見る確率よりは高いだろうが。 俺は1つ溜息をつく。ここでいきなり第三種接近遭遇なんてことにならなくて良かった。 どっちが捕獲されるかはわからんが、下手すりゃ第四種だ。ハルヒなら捕獲しそうだな。 俺はすでに第三種接近遭遇は済ましてるけどな。 UFOは見ていないが。 宇宙人に殺されかけたのは、さて第何種と言っていいんだろうな。 ハルヒはクレーターの真ん中に近づくと、地面に半分埋まった黒い石を眺めた。 「隕石かぁ。実は小さいUFOってことはないかしら?」 しかしどう見ても石だった。 「でもこれも凄い発見よね! もしかしたら石じゃなくて地球外生命体の秘密の道具か何かかもよ!」 ドラ○もんかよ、じゃなくてしまった! そっちの可能性があったか! 普通なら寝言は寝て言えと片づけられる発言も、ハルヒが言うとシャレにならん。 やはり長門に連絡を取ってみるかと考えていると、ハルヒは無防備にその石を手に取った。 「おい! むやみに触るな!」 声をかけるのが遅かった。 ハルヒがその石を拾って立ち上がったとたん── その場に倒れた。 「おい! ハルヒ!! しっかりしろ!!!!」 何があった? いくら呼んでも目を開けない。 ハルヒを抱き起こして揺さぶってみる。 さっきまであんなに元気だったのに? ハルヒに何が起こった? 頼む、目を開けてくれ! すまん。先に気付くべきだった。 今回のことはハルヒ絡みか、さもなければ宇宙人絡みか。 何かある、とうすうす気がついていたのに、俺はハルヒを止めなかった。 「ハルヒ……!」 気がつくと、俺はハルヒを抱きしめていた。 畜生、本当に何が起こった。 いや、落ち着け。 原因は十中八九あれだ。あの隕石。 だったら俺にはどうしようもない。助けを呼ばなくては。 ようやく長門に電話することを思い出した。 『……』 いつもの無言で出てくれた。 「もしもし! 長門! 助けてくれ!」 相変わらず無言だが、構わずに続ける。 「今学校の裏山にいる。隕石が落ちたらしくてハルヒと捜していた」 『午前7時4分、地球の重力にとらえられた落下物を確認』 「その隕石をハルヒが触ったとたんに倒れちまった。意識が戻らねぇ」 『……そちらに行って確認する。待っていて』 電話は一方的に切れた。 と思ったら、長門がいた。 「長門!? どうやって来た!?」 聞いても俺に分かる答えが返ってくるはずもないのだが、一種の瞬間移動らしい。 量子変換がどうたらと言っていた気がするが、すまん。さっぱりわからん。 本当に何でもありだな。時間も凍結出来るこいつだ、空間移動なんて朝飯前だろう。 その長門はしばらくハルヒをじっと眺めた後、ハルヒの手にある隕石を眺めていた。 何とかその表情を読み取ろうとして、俺は不安になった。長門が1ミリほど顔をしかめた気がした。 「緊急事態」 その一言で、俺は目の前が真っ暗になった気がした。 「しっかりして」 長門の声で我に返る。 「涼宮ハルヒを学校へ。部室に行く」 いつになく緊迫した声で──と言っても俺にしか解らないだろうが──俺に言った。 「わかった」 どのみち俺に出来ることはない。 ハルヒを背負うと歩きにくい山道をそろそろと下りていった。 今思うと長門に任せた方が早く下りられたのだが、俺はハルヒを誰かに任す気にはなれなかった。 長門は誰かに電話をしていた。おそらく古泉と朝比奈さんだろう。 学校に着くと、校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。 登校中の生徒も多く見られるが、気にしちゃいられない。 「直ぐに救急車とタクシーが来ます。部室ではなく病院に行きましょう」 そう言ったとたん、救急車とタクシーが現れた。どこかで待機していたのかもしれない。 ストレッチャーにハルヒを乗せ、俺も付き添いで救急車に乗り込んだ。 救急隊員は、やはりというか多丸兄弟だった。 「ハルヒ……」 手を握っても、握り返されることはない。 早く長門の説明を聞きたかったが、ハルヒの側を離れたくなかった。 おそらく古泉と朝比奈さんは、タクシーの中で状況を説明されているだろう。 やがて救急車は見覚えのある病院に着いた。これは予想の内だった。 『機関』なら、ハルヒに対しては出来る限りのことをするだろう。 驚いたことに、ハルヒは医師の診察を受けず、直ぐに病室へと運ばれた。 「診察はしないんですか?」 側にいた多丸(兄)さんに聞くと、そういう指示だと言う。 不思議に思っていると、長門が来て言った。 「診察は無意味。涼宮ハルヒは病気ではない」 2.レトロウイルスへ
https://w.atwiki.jp/textlib/pages/260.html
民主党ですがもう立派な【赤軍】 http //anchorage.2ch.net/test/read.cgi/army/1248183329/ 571 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 08 29 ID ??? しかし、なんでキョンはハルヒの力で世界征服とか、戦争根絶を企まないんだろう? 混沌の邪神呼び出すとか、日常生活に張りがでそうな気がするんだが。 572 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 10 43 ID ??? 571 理想の世界実現のためにハルヒを口説き落とすようなやる気のあるキョン子なんて、キョン子じゃないだろ。 575 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 12 15 ID ??? 571 ハルヒが、それを望んでいないからでしょ? 非日常を一番望んでいないのはハルヒだろうし。 だから、非日常を平然と受け入れるキョンがカギなわけで。 576 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 12 34 ID ??? 571 キョンはハルヒが好きだからじゃないかな 577 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 12 36 ID ??? 572 男だったらやる時はやらんといかんだろ。 世界制服とか、人類巨乳化計画とか。 583 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 17 43 ID ??? 575 エスパー少年や生体端末の言うことが事実か確認する必要性を感じないか? 世界がどこまで改変されるのか、知りたいと思うだろ、普通。 バランシェとかいうキチピーも言ってたじゃないか。 584 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 20 07 ID ??? マジレスしとくと、ハルヒに自分の能力を気付かせてはいけないという方針で合意してるので、そもそも ハルヒの力を積極的に利用して~~というifは、物語設定上封じられてるぞ。 586 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 22 30 ID ??? 583 だから、それをすると価値観が崩壊するから、ハルヒがそれを望まず、結果としてキョンはそれを起こさないんだって。 非日常を受け入れながらも、極限状況でさえ日常を保ち続けられるから、キョンはカギとして選ばれたわけで、 そういう好奇心に負けて、価値観の崩壊を引き起こすような人間なら鍵として選ばれず、 逆説的に、ハルヒの能力を誘導することができる立ち位置につけないんだよ。 卵が先か、鶏が先かは知らん。 588 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 24 55 ID ??? 584 それこそが、「なぜ?」なんですけどね。 それこそ、あの3人の中で、「ハルヒが能力を使わないこと」を望んでいるのは、古泉だけですし。 現状維持をする理由は何か。 とかとか。 595 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 29 52 ID ??? 586 世界から戦争がなくなっても、日常の「価値観」は崩壊しないだろ。 598 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 30 44 ID ??? 588 観察が目的のみくる&長門も、能力に気付くことを望んでませんぜ。 一方、むしろ積極的にハルヒが能力を使用することを望む情報思念体急進派が朝倉をキョンに 差し向ける…ってのが『涼宮ハルヒの憂鬱』のあらすじですね。 599 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 30 56 ID ??? 590 キョンがカギであることに、必然性がないと考えるんなら、それは成り立つが、 必然性があると考えるなら、それは成り立たないんだよ。 成り立たないから、鍵たりえたわけで。 ちなみに、長門たち3人に関しては、3人が3人とも、それぞれの立場で嘘を言っていると思うぞ。 矛盾点もいくつかあるし。 そのうえで、3人が共通して取り違えている点もあるわけで、そのあたりを考慮すると、キョンがあの正確なのには必然性が生まれると。 604 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 35 03 ID ??? 584 気付かせずに利用する方法ならいくらかありそうなもんだが 605 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 35 46 ID ??? 小泉が嘘を言ってるのが解るが・・・。 しかし、キョンは「君は一般人ですよ」という小泉のセリフを無条件に信じている のはそうでありたいという願望からなのか? 606 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 36 11 ID ??? つまりキョンは先天性EDと・・・ 608 名前:・・・・・・ ◆OVNYPzgZN2 [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 36 24 ID ??? 604 利用する勢力が入り乱れて・・・一歩間違えれば「ひぐらし~」 になりそうな気が。 610 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 37 54 ID ??? 604 そこはメタ的な調整ですな。 キョン自身、ときどき(『消失』とか)ハルヒの力を使ってでも~とか発言してるけど、そこまでする前に 事件が解決するようになってるという。 611 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 38 31 ID ??? 595 争うという概念がなくなれば、十分崩壊するがな。 598 だから、「なぜ?」なのかということです。 それをすることに、どんなメリットがあり、それを破ることに、どんなデメリットがあるから、それを望まないのかと。 それこそ、朝比奈さんの言う「予定調和」でさえ明々白々な嘘なわけで、 長門の観測者という立場も、いろいろと疑問の残る設定ですよ? 612 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 40 40 ID ??? 611 争うという概念がなくなる必要はない。 鉄砲撃ち合って戦争する、という事象がなくなればいい。 614 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 40 57 ID ??? 605 一般人という定義次第ですが、特殊な能力は持っていないし、 持っていたらそれこそ鍵には選ばれないでしょう。 古泉の言う「一般人」とキョンの信じる「一般人」と、我々が思う「一般人」は、同一のものではないですが。 616 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 41 56 ID ??? 611 予測不可能なことが起きたとき、誰もストップかけられないから慎重にいきましょうってのが 『憂鬱』の段階での説明だったかと。 617 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 42 22 ID ??? ハルヒが本当に世界を改変する力を持っていれば、キョンはあんな回りくどい告白 をすることはなかったと思うんだが。 それこそ放課後の教室で、極普通に告白するんじゃないかね? 618 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 42 52 ID ??? 612 で、どうやって問題を解決するんだ? 戦争以上に、クールな問題の解決方法がこの世に存在するとでも? そもそも、現実を改ざんしたら、矛盾点が生まれるわけで、 それこそをハルヒが望んでいないと言っているんだが。 戦争はある、ハルヒがそれを信じているからこそ、それを否定しないためにハルヒが暴れ、キョンが東奔西走するんだよ。 619 名前:名無しモスボーラー逆打ちforノムたん34番所 ◆MothB.a5TA [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 43 25 ID ??? てゆかキョンはまにまにの朔と同程度には平穏な日常を望んでいるんじゃないかと。 自らすすんで厄介ごとの種は増やさないでしょぉ 621 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 45 10 ID ??? 616 予測不能の事態を避けることに、意味があるとは思えないんですよ。 もちろん、古泉にとっては、危険が大きすぎますし、 朝比奈さんにとっても、危険性を無視できる話じゃないでしょう。 でも、こと長門に関して言えば、危険性は無視できる範囲です。 617 ハルヒが、キョンのことが好きだから、キョンがカギになったということ自体が、うそだと思う。 626 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 49 05 ID ??? 621 みくる&一姫は「なるべく現状維持でいこーぜー」派。 長門は「唯一無二の観察対象だから、壊さないようにいこーぜー」派。 ちなみに平凡かつ平等な生活から抜け出してなんか特別なことしようぜ→は、やっぱり普通が一番は 当時の流行スタイルでもあるのでそのへん考慮する必要もあり。 627 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 49 31 ID ??? 619 キョンが平穏な日常を望んでるなら、長門が改変した世界から帰ろうとしないだろ。 630 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 52 27 ID ??? 世界を変える力を持ってるのは実はキョンじゃないのか? ハルヒがおかしな力を使い出したのは、キョンが小泉に言いくるめられてからだし。 632 名前:名無しモスボーラー逆打ちforノムたん34番所 ◆MothB.a5TA [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 53 31 ID ??? 627 どの世界ニカ? …「平凡な日常をハルヒに破壊される日々」としたらどうなるだろうかなどと考えて見たり 633 名前:・・・・・・ ◆OVNYPzgZN2 [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 54 17 ID ??? 630 『エンドレスエイト』もキョンがトリガーだしね。 635 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 55 10 ID ??? 632 長門がふつーの女子高生で、ハルヒが別の高校に通ってて小泉と付き合ってる世界。 636 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 56 12 ID ??? 635 あれ?あの人ガチホモじゃなかったの? 639 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 57 50 ID ??? 626 長門にとって、ハルヒは唯一無二ではないですよ? 唯一無二だとすると、朝比奈さんの存在意義が崩壊します。 物語に出てくるハルヒと、時間障壁を発生させたハルヒを同一とおくのは無理があるわけで。 それ自体を嘘とおくと、未来人の目的自体が不明になるんで、いくらでも妄想できますが。 異時間同位体と同期でき、さらに、時間軸に垂直な障壁が存在しうる世界である以上、 時間は最低でも3次元で有り、長門たちはそれ以上の次元に存在しているわけです。 一つの第一時間軸上の出来事など、大した問題ではないでしょうし。 もちろん、消失とか、あのあたりの時間軸まで進むと、希少さは上がりますが、これまた、唯一無二ではないですし。 641 名前:名無しモスボーラー逆打ちforノムたん34番所 ◆MothB.a5TA [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 58 06 ID ??? 635 ウリは今回のアニメが初見だからそれは知らないニダ やっぱりこう、ハルヒにぶち壊されることで逆説的に日常の有り難味を噛み締められる現状が好きなのかもw 642 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 02 58 08 ID ??? 636 長門がいじくりまわしてるから、違うんだろう。>小泉がガチホモ でも、ハルヒは押しかけ女房っぽいし、小泉がホモ隠しに使ってるだけなのかも。 643 名前:七猫伍長 ◆4gYfuUCcAY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 00 00 ID ??? 642 ところで古泉であって、小泉ではありません。 ジュニーがガチホモで誰が喜ぶって・・・・ ああ、一人いるかもしれない。うんw 646 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 01 55 ID ??? 639 『憂鬱』終盤、世界の改変の開始に対して長門が「失望している。進化の可能性は失われた」という旨の 発言をしている通り、情報思念体にとってもハルヒは唯一無二の設定ですぜ。 649 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 04 55 ID ??? 646 長門は自分の発言を事実と思っているが、事実ではない可能性もある。 652 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 06 49 ID ??? 649 原作で情報が示されていない領域に踏み込む「深読み」までいってしまうと、コメントのしようがないな。 そういう二次創作を作ってみてはいかが?くらいしか言うことがない。 655 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 09 47 ID ??? 646 とすると、そこらじゅうに矛盾が生まれるわけですが。 あるいは、俺が思っているほどハルヒは普遍的な存在じゃないのかもですねぇ。 分裂とかの設定を見る限り。 いずれにしても、長門にとっての時間と世界の感覚を普通の人間のそれを同一視するのは、明らかにおかしいですよ。 朝倉のセリフあたりからも、第一時間軸上での存在の途絶を絶対視する感覚は、彼女たちにはなさそうですし。 657 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 12 30 ID ??? 655追記 そもそも、「完全に失われた」とは言っていないわけだし。 消失の際の対応との違いを考えると、アレがそこまで一大事だったようには思えなかったり。 660 名前:名無しモスボーラー逆打ちforノムたん34番所 ◆MothB.a5TA [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 13 40 ID ??? そういうことで寝るニダ よきエンドレスエイトの夢を 661 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 14 17 ID ??? 655 朝倉の目的は「キョン子を殺すことで、ハルヒに次元震を起こさせそれを観測する」というもので、 ハルヒ喪失の恐れが少ないから実行されたと考えてみてはいかが?(キョン子の死亡により ハルヒ自殺等の可能性より、キョン子が死ななかった世界を望んで次元震を起こす可能性の ほうが高いと判断した) ま、いずれにせよこのへんは「深読み」の領域ですが。 663 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 21 22 ID ??? 661 「生死の概念~~」のあたりです、朝倉のセリフ。 唯一無二の存在があるなら、それをリンクさせることで存在の途絶に関する感覚は推察できますし。 高次元的に存在し、第一時間軸的に普遍で、第二時間軸以上の時間にまたがって遍在する存在からすると、 それぞれの第一時間軸上での存在の途絶や存続に、意味を感じることはできないのでしょう。 664 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 24 58 ID ??? 663 あれには前置きがあって、「“有機生命体の”死の概念がよく理解できない」と言ってます。 逆に言えば、有機生命体以外の何かの死の概念には、よく理解できるものがあるってことですね。 666 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 31 06 ID ??? 664 長門の説明が下手なんだよ。 「時間を移動できる私には、時間を移動出来ない有機生命体の死の概念がよく 理解できない。だって、過去に戻れば、死者は生きているから」 ぐらい言えば、有機生命体にも理解できるんじゃね? 669 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 36 47 ID ??? 664 そのあたりの言葉尻を取り始めると、深読みの類になりますぜ? いずれにせよ、「時間軸上に垂直な障壁」がある「時点」で「発生」していている時点で、 その時間障壁は「第二次元以上の時間軸方向に起点を持つ」ことが確実で、 それを迂回できない未来人の時間移動技術は、時間障壁と平行な方向に移動することが不可能なのも確実。 さらに朝比奈さん(大)という存在がいる=物語上の朝比奈さんは二代目以降であるという条件から考えると、 朝比奈さん(小)がいる時間軸は、朝比奈さん(大)が活躍していた時間だけ、時間障壁と平行な方向にずれているわけで、 それを作ったハルヒと、物語上のハルヒは、確実に別の存在なわけです。 それに、タイムパラドックスの説明でも、時間軸上にハルヒが遍在することは確実でしょう。 672 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 44 02 ID ??? 661 なんで「子」を付けるこの変態! 677 名前:フィーメイルドレス ◆HHnm1kjdqY [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 52 51 ID ??? 669 どーせ後から情報出てきたら全部ひっくり返る可能性もあるし、ひとまず静観しとくかーって話に なっちまうので、深読みは深読みとしてやるのは楽しい。 671 でも「機能停止」って概念なら分かるのよね、朝倉… 672 ふぇ? キョン子はキョン子ですよ? キョンって誰ですか? 681 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2009/07/22(水) 03 59 54 ID ??? 677 うい、機能停止=「死」じゃないんですよ、彼女たちの感覚だと。 これを、機能停止を全体の停止と考えない=ゲームでミスったようなものととらえるか、 別の形で存続しているととらえるのかは、人それぞれでしょう。 両方という可能性もありますね。 いずれにせよ、現時点で判明しているハルヒに関する情報や、長門たちの自己申告はすごーく信用ならないということです。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4031.html
ああ…なんだこの気分は… 懐かしいこの気持ちは… この温もりは… 心の奥から溢れだすものは・・・ 私を優しく抱いてくれているこのお方は・・・? 『目が覚めた?』 私は・・・ 『やっと会えたね。弁慶・・・』 九郎殿…九郎義経殿・・・ 『君がいなくてずっと寂しかったんだよ。僕は、こんなにずっと君のことを想っていたのに・・・』 申し訳ございませぬ・・・ 『・・・もう、いいのかい?』 はい・・・九郎殿・・・私もいよいよお側に参ります・・・ 『さあ、一緒に行こう。僕の手を取って・・・・』 みくる「あ・・・」 ハルヒ「どうしたのみくるちゃん?」 みくる「今…成仏されました・・・」 古泉「そうですか…義経殿のお側に行けたのでしょうね」 みくる「きっと会えたんだと思います・・・清い魂しか感じませんから(にこっ)」 古泉「ええ・・・」 キョン「ああ・・・」 ハルヒ「よかったわね・・・」 ===「この刀は、九郎様から主達に是非と・・・」=== キョン「!」 ハルヒ「・・・今聞こえた?」 キョン「ああ・・・!」 古泉「貴方が貰っていいそうです。あそこに収められている刀を」 キョン「お、おお」 俺は埃を被っている台から慎重に持ち上げ、鞘からそっと刀を抜いた キョン「これが義経の・・・」 長門「伝説の名刀・・・」 輝くばかりの銀色に染まるその刀は、見る者全てを虜にしてしまうほど美しかった ==平泉の町== キョン「今帰りましたよ。ご主人」 ハルヒ「ただいま!心配しなくてもちゃーんとお宝を持って帰ってきたわよ!」 ご主人は俺達を見るなり顔色を変え、目に涙を浮かべた 主人「きみたち・・・よく帰って来たっ!!」 キョン「い、いきなりどうしたんですか?俺に抱きついたりして」 宿屋のご主人は昔、息子を亡くしているらしい 剣術を磨くと言ってあの洞窟に入り、命を落としたのだそうだ。 その子の雰囲気がどことなく俺に似ていたらしい みくる「あとで私があの洞窟の皆さんの為に御経を詠んでおきますね」 キョン「朝比奈さんってお経詠めるんですか?」 みくる「父に習ったんです。お経だけは絶対詠めるようになれって言われて・・・」 キョン「そうですか・・・お父さんの事、尊敬してますか?」 みくる「はいっ!すばらしい父だったと思ってます!」 朝比奈さんが洞窟の入り口で数時間にわたる長い御経を詠み終えたその後、俺達は平泉の町を後にした キョン「お前が最後に使った術って一体なんだったんだ?」 古泉「陰陽道には、【悲観】と呼ばれる術が存在します。人の憎しみや悲しみ、恨みなどを、時には吸い出し、時には増幅させる。心に鏡を翳し、夢想界へと誘う…そんな危険な術で、本来は使うべきものでは在りませんが、今回はやむなく・・・」 キョン「・・・なあ古泉」 古泉「・・・なんですか?」 キョン「お前は前言ってたよな?自分の術に優しさは無いと」 古泉「ええ・・・」 キョン「救えたじゃねえか」 古泉「え・・・?」 キョン「過程はどうあれ、お前の術で一つの魂を救う事が出来た。内容がどうあれ、お前が放った最後の術はアイツを優しく包み込んだ・・・だから天に昇れたんだ。お前のおかげでアイツは上に行けたんだよ…」 古泉「・・・はいっ!・・・・ありがとう、ございます・・・」 古泉は前に言った。 終わらない戦いは、俺達からあらゆる意味での優しさを奪っているのかもしれないと でも俺は、決してそんなことは無いと思う 人が人のことを想うなら、その気持ちは優しいものだし、永遠のものだ だから俺は忘れないでいたい そういう心を 人を優しく想う気持ち、人を強く愛しむ気持ち それを忘れてしまったら俺は、俺が一番恨むものと変わらなくなってしまう気がするから・・・ 持ち続けていたい、生きる限り その純粋な心を ハルヒ「それでキョン」 キョン「なんだ?人がせっかく素晴らしい考え事を・・・」 ハルヒ「伝火がなくなっちゃったのよ、ほら平泉の洞窟で全部使っちゃったじゃない」 キョン「ああ、そういえばそうだったな」 ハルヒ「他にも色々買いたいものがあるし…」 古泉「・・・と、くれば」 キョン「あそこしかないな」 みくる「あそこですよねぇ~♪」 長門「・・・こく」 キョ、ハル、長、みく、古『『相模へ行こう!!』』 ==相模城下町== 谷口「WAWAWA~忘れ物~俺のかわいこちゃん~~・・・・うおっ!!」 商人「邪魔だよどいたどいた!」 商人B「さあらっしゃいらっしゃい!!!」 商人C「うちは安売り高値買いが基本!!どんと見てってねー!!!」 谷口「NA、NANANAなんだこの町は!?超活気づいてるじゃねーか!」 商人「さあこれが今日の大一番!!買わないと損するよ~」 商人A「珍しい一品が手に入ったよ!先着10名のみ販売!!」 谷口「お、俺にはついてけないぜ…皆すごい商売熱だ・・・・・・ごゆっくりぃ~!!!」 キョン「ようやく着いたな・・」 ハルヒ「け、結構歩いたわねえ・・」 みくる「も、もうへとへとですぅ~ふみぃ」 古泉「おや?こんなところに看板が刺さっていますよ?」 長門「本当・・・」 キョン「なになに?『買物は相模で!!』・・・って当ったり前だぜ」 古泉「それだけ相模は品揃いも良いのでしょう。では町に入りましょう」 ハルヒ「そうね。早く宿を確保して休みたいし」 とりあえず宿屋を確保して二時間ほどの休息を取った俺達は、さっそく色々な買い物をするべく、五人で市場や店を歩き周り始めた みくる「ほえ~流石に色々なお店がありますぅ」 ハルヒ「さっすが有名なだけあって品揃えも抜群ね!・・・高いけど」 古泉「こういう場所では掘り出し物を探したりするのも一つの醍醐味かと」 ハルヒ「それよ!腕がなってきたわ~!それっ、とつげきぃー!!!!!」 キョン「おーいハルヒ、あんまり遠くまでは行くんじゃないぞー・・・やれやれ」 古泉「とりあえず僕達もどこかの店に入りましょう」 みくる「そうですねぇ」 長門「賛成…」 タッタッタッタッタッタッ キョン「なんだこの音は?」 古泉「誰かが走って向かってくる音でしょうか?」 キョン「ああ、それもかなり急いでる感じ・・・」 ???「ど、どいてどいてぇ!!」 古泉「うわっ!」 ズドーン 何処からともなく、しんぷうの如く走ってきた女の子は古泉に勢いよくタックルをかました おい・・大丈夫か古泉~? 古泉「ええ・・・大丈夫です」 キョン「そうか、よかっt ???「ごめんっ!大丈夫だったきみぃ~!?」 うほっ…相模美人とはこういう人のことを言うのだろうか・・・ なんというか・・活発で・・しかしお淑やかそうな・・・ 古泉「大丈夫ですよ。貴方こそ座りながら手を合わせるものではありません。手を貸しますから御立ち下さい。 お姫様(キラーン)」 キラーンってのは俺がつけ足してやった 寒気がするほどのハンサム面だったからな。文句は無しで頼むぜ ???「それもそうだねっ!あたしったらめがっさ不注意でさ~ホントごめんねっ!」 古泉「僕に怪我は在りません、問題無です。それより何やら急いでたみたいですが・・・?」 ???「・・・へ?」 何かを思い出したかのように顔が真っ青になる相模美人。 ああ、どこの町でも美人ってもんは違うぜ ???「ああー!!急がないと父さんにめがっさ怒られるにょろ!!じゃあまた縁があったら会おうっ諸君!!」 相模美人は名前を告げることなく早々に走り去って行ったー 久々にニヤニヤが止まらないぜ こんなニヤケ面をハルヒに見られたら一体どんなことになるか・・・ ハルヒ『なぁにキョン?そのまるで、すっごい美人に会った時になるようなニヤケ面は?』 全世界が、停止したかのように思われた 涼宮ハルヒの忍劇9
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5478.html
(これでも三訂版) ・サイレントヒルとのクロスオーバー。グロ描写注意。 「これ、返す」 「おう、やったのか」 有希がキョンに何かのゲームソフトを渡すのが見えた。有希もゲームをするのね、ちょっと意外。どんなのかしら。 「それ、何?」 「ああ、零だよ」 キョンがソフトをこちらに見せた。いかにもなパッケージをしているところからするとホラーゲームみたい。あたしが好きなジャンルではないみたい。 「お前はこういうのが好きじゃないみたいだな」 キョンがそう言ったのでびっくりした。 「な、なんで分かったのよ」 「期待して損した、みたいな表情をしてたからな」 そんな表情してたのかしら……。こいつ時々鋭いから困ったものだわ。 「で、有希、それをやってみてどうだった?」 「人間の想像力は……恐ろしい」 いつもより小さな声でそういうと俯いてしまった。 「どうしたのよ有希。まさか、怖かったの?」 「違う」 即答だった。必死さを感じたのは気のせいかしら。 「そんなことはない。決してトイレに行くことが出来なくなったり、布団に潜ったまま翌朝まで身動き出来なくなった訳ではない」 有希……全部言ってどうするの……。 「貸しておいて何だが……スマン」 「いい」 やがて古泉君やみくるちゃんがやってきた。古泉君がそのソフトの箱を見るなり言った。 「まさか貴方がそのような分野のを持っているとは思いませんでした」 「興味本位でな。あの怖いCMがちょっときになってな」 すぐにどんなのか判ったってことは古泉君もやったことあるのかしら。ちょっと内容が気になるけど……怖いのよね。 「そんなの怖くてできないです……」 そう呟いたみくるちゃんに同意せざるを得ないわ。 「キョンってどんなジャンルのゲームをするの? まさかそんなのしかないとか言わないでしょうね」 「さすがにそれはねーよ。妹もいるんだしな、パーティゲームとか大衆向けのももそれなりにあるぞ」 「ふーん、じゃあ週末はキョンの家でゲーム大会ね」 「え、ん、まあいいが」 「じゃ決定ね。ということだからみんなよろしく!」 その後、有希は読者を再開していたし、古泉君はキョンとチェスを始め、みくるちゃんは紅茶を選んでいた。 あたしは特に何をするということもなく、適当に検索して開いたページ眺めてた。 さっきの零とかいうソフトについて調べないのかって? 冗談じゃないわ、あんなアブノーマルなのあたしには向いてないもの。 「あ、あれ……?」 気が付くと、あたしは真っ暗な駅のホームに立っていた。 何で? さっきまで部室にいた筈なのに。 慌てて辺りを見回すけれど、ホームどころか駅の周辺からも人の気配が全然しない。 「どうなってるのかしら」 ホ-ムを改めて見回してみる。見たくなかったけれど。 蛍光灯だけが照らしている構内は随分と汚くて、柱なんて赤錆でボロボロになっている。地面のコンクリートが赤いのもそのせいよ。 そのせいよね……。 ここはどこの駅なのかしら。全く見覚えがない。外に明かりはなく、この駅以外は永遠に続きそうな真っ暗闇しかない。 一体何が起こったのかさっぱり分からない。あたしは一歩も動けずに 「いやああああああああああああああああああああ!!!」 その突然の叫び声にあまりに驚いたあたしは、一瞬呼吸を忘れてしまった。 「何!? 何なの!? さっきの悲鳴は何なのよ!?」 パニック寸前のあたしは一刻も早くここから出ようと、改札口へ走った。自分の荒い息遣いと壁に反響した足音だけが聞こえる。 周りを見ている余裕なんてなかった。後で思うと、見なくて正解だったかもね。 恐怖からの逃避を図ったその先で、あたしは地獄を見た。心臓が縮み上がった。全身から血の気が引く音がした。 改札口の辺りは血痕だらけになっていた。床も壁も天井も……、一体何をすればこんなに飛び散るのだろう……。 そして改札機のそばには何かが 「……みくるちゃん!?」 どうして? どうしてこんなことになってるの!? 血まみれになって倒れているみくるちゃんはあたしの声に気付いてこっちを見た。 「みくるちゃん! 何があったの!? しっかりして!」 「涼宮さん…………逃げて下さい…………。この世界は…………もう…………」 「何言ってるの!? みくるちゃん! 」 「……じ………く…………」 「 !」 「………………………」 もうみくるちゃんが何を言ったか聞き取れなかったし、自分が何を言ったかさえ覚えていなかった。 「 !」 「」 「」 「」 「」 「 「 「 「おい、ハルヒ? ハルヒ?」 あたしは気付くと、机に突っ伏して寝ていたみたいだった。額は汗でびっしょりになっていた。 ゆ、夢? そうよね、あんなこと現実にはあり得ないもの…………。 「どんな夢を見てたんだ? 随分と苦しそうだったが、大丈夫か?」 キョンはまだ呼吸の整っていないあたしを心配しているみたい。 視線を移すと、心配そうにこちらを覗くみくるちゃんが見えた。ちゃんとメイド服を来てるし、勿論血なんてついてない。 あたしは立ち上がると、何か話しているキョンを無視してふらふらとした足取りでみくるちゃんに近付いた。みくるちゃんは少し驚いた表情をしていたけどね。そんなのどうだっていいわ、さっきのが夢だっていう証拠が欲しかったから。 「みくるちゃん、何も起こってない……よね……?」 「え? は、はい、いつも通りですよ」 あたしはみくるちゃんに抱きついて泣いていた。 「す、涼宮さん?」 「ちょっと……怖い夢を見ちゃったから……。うん、大丈夫よ……」 みくるちゃんは、優しくあたしを撫でてくれた。ちょっと恥ずかしかったから、悪夢を見たのをキョンのせいにして解散した。 家に帰ってからは、一晩中なんだか怖かった。それはもうキョンから借りたゲームの所為で動けなくなった有希といい勝負だったかもしれない。 けど、何も起こらなかったし、あの夢も見なかった。 でも、翌朝にそれは起こった。 あの悪夢はただの夢だったことにほっとして、何時ものように学校に向かっていたあたしは、突然目眩に襲われて倒れた。 気がつくと、ほほにアスファルトの感触がある。その場に倒れたままだった。 「ったく……誰も助けてくれないなんて薄情な……」 ここは一通りの多い通学路なのに、人の気配が一切なかった。 そして辺りは真っ白な霧で覆われていて、5メートル先も見えない状態だった。 「え? なに……これ……」 何より不安を誘うのが、全くと言っていいほどに音が無いことだった。 音がしないなんて雪が降った日みたいだけど、今は凄く不気味に感じる。 無響室に入れられた人は不安感を抱くとかいう実験について聞いたことがあるけど、今のあたしはそれに近い環境下におかれているのかもしれない。 ここは毎日通る道なのに、どう進めばいいか分からない。電柱とか、特徴がある家とか、そういった目印を探しつつ学校へ向かった。もう家を出てしまった以上、学校に行った方が安全だと思ったから。 そうして何とか進んでいた時、私は不意に足を止めた。 白い霧の中に、ぼんやりと影が見える。その形からして、路上に誰か倒れているようにしか見えなかった。 あの時のよく似た状況の記憶が頭を埋め尽くす。 嫌、見たくない…………。 それでも、あたしには前に進むしかなかった。 重い足取りでも、確実にそれに近づいていた。 やがて霧の中から見えてきたのは、血溜まりに倒れているキョンだった。 「……え…?」 今回は夢じゃない。体を流れる血が冷たく感じた。 「嘘……でしょ……?」 キョンを揺さぶっても、全然反応しない。手も首も、だらんと重力に負けたまま……。 「嘘って……、言ってよ……ねえ!」 あたしの両手が真っ赤になっていた。キョンはおびただしい量の血を流して、温かさを失っていた。 「どうすればいいの……!」 救急車を呼ぼうと思い立って、慌てて震える手で携帯を取り出した。 「……どうして?」 圏外という赤い二文字が画面に表示されていた。助けは来ない、あたしにも助けられない。 キョンは死んでしまった? これはみくるちゃんの時と同じ「夢」……よね……? でも、このべっとりとした嫌な感触や、鉄の臭いは…… ………… ………… あたしは狂ったように泣き叫んだ。声が裏返り、しわがれても構わずに叫び続けた。 「…………!」 あたしは泣くのをやめた。 足音が聞こえた。しかもそれが段々と近づいていた。 「だ、誰……誰なの!?」 あたしは虚空に向かって叫んだ。虚勢でも張っていないとおかしくなってしまいそうだった。 すると、返事が聞こえた。 「涼宮さん!?」 あの声は、古泉君! 良かった……。 霧の中から姿を現したのは間違いなく古泉君だった。 「涼宮さ…………」 古泉君はキョンの亡骸を見て言葉を失った。 「これは……」 「あたしが来た時には、もう……」 「朝比奈さんに続いてまさか彼が……」 その言葉にはっとした。 「みくるちゃんも!? どういうことなの?」 「朝比奈さんは、先日、駅の改札口で」 「何ですって!?」 古泉君の話していた内容は、あの時の夢と全く同じだった。 あたしは頭を抱えた。ひどく混乱していた。信じたくないことばかりがぐちゃぐちゃになって頭の中を掻きまわしていた。 どういうことなの? あれは夢じゃなかったの? 「このままでは、この世界は……終わってしまいます」 それは、みくるちゃんと同じ台詞だった。 『この世界は…………もう…………』 「古泉君、この世界って何なの? 何でみんな殺されたの? この世界はどうなっちゃうの!?」 あたしが古泉君に掴みかかっていたその時、後ろから声がした。 「あら、揃ったのね」 振り向いたけど霧しか見えない。 「誰よ!」 「あら、名前なんて言わなくても分かるでしょ?」 霧の中から、うっすらと影が見えてきた。 「彼を殺したのはあたしよ。話を面白くするには良い演出でしょ?」 笑っているような口調だった。 「ふざけるな!」 あたしはそいつに向かって怒鳴った。 「ふざけてはないったら。彼もあの子も必要な犠牲なんだから」 まさか、みくるちゃんもこいつが……。そう判断した瞬間、自分自身でも驚く程の激しい憎しみという感情を抱いていた。 「良いわねぇ……、良いわその表情……。あたしを殺したいの? 出来るかしら?」 あたしは呼吸が荒くなっているのが分かっていたけれど、それを抑えることはしなかった。 「悔しいのなら、学校で待ってるからいらっしゃい。面白いものを見せてあげるから」 そう言って、そいつは霧の中に消えた。 キョン…… そいつが消えた頃にあたしはようやく落ち着いた。古泉君が霧で真っ白の世界を見回しながら呟いた。 「僕自身も、裏世界にいるのは初めてなんですが……。この霧の世界……、まさにサイレントヒルですね」 「それって……あたし達はホラーゲームの世界に放り込まれたってこと? 冗談じゃないわ!」 本当に冗談じゃなかった。ホラーの世界が現実になったら……とてもじゃないけど、主人公みたいに生き残れる自信なんて……。 「しかし、このままでは何も進展しません。ここで敵の襲撃を受ければ助かる見込みはありません」 あたしは決意した。キョンの仇を取らなきゃ。 「……分かったわ、あたし達が主人公になってやろうじゃないの。主人公は不死身なんだからね」 あたしは別の世界の涼宮ハルヒだと説明すると、古泉君はあっさりと理解してくれた。 なんで不思議に思わないのだろう……。 古泉君によると、この世界のあたしは数日前に失踪してしまっている。それ以来、裏世界と呼ばれるおぞましい空間が発生し、そこで殺人事件が起こっているらしい。 その犠牲者はキョンやみくるちゃんを含めて20人を超え……。 そして、今いるのがその裏世界。惨劇の舞台に、あたし達はいる。 「つまり、狙われてるってこと?」 そう思いたくなかったけど、そう思わざるを得なかった。 あたし達はあの女のいる学校へ向かうことにした。 何かが襲ってこないか不安だったけども、静寂を破るようなことは起こらなかった。 どれくらいの時間が掛ったのだろう、霧の中を歩いて、ようやく学校に着いた。 でも、古泉君は入るのを躊躇っていた。 「どうしたの?」 「裏世界の詳細をご存知ですか?」 「どんな世界なの?」 「その世界の建物の内部はとても凄惨なことになっています。最もおぞましいと言われる程だそうです。覚悟をしないと、精神的に参ってしまいます」 あたしは頷いて学校へと入った。 覚悟はしていたつもりだった。 でも、古泉君が言っていた通り、入った瞬間に食道がケイレンを起こした。 「ぅ…………」 あの時の駅より酷い、酷過ぎる。 「大丈夫ですか?」 何もかもが赤錆と血飛沫でどす黒い赤色になっていた。血の臭いがする……。この学校のあらゆる場所で殺し合いがあったような状態だった。 「ええ。なんとかね……」 蛍光灯は全部割れていて、外の霧が唯一の明かりになっていた。 「かなりの邪念を感じますが……、とりあえず、進みましょう」 「ええ、そうするしかないわね……」 昇降口 まず、自分の上靴の場所を調べる。 履き替えるつもりなんて勿論無い。血でこんなに汚いんだから、土足でも構わないだろうし。 二度と触りたくないくらいに汚い上履き以外は、変わった物は入っていなかった。 「おや、これは心強いですね」 古泉君が見つけたのは、ショットガンだった。弾も幾つか見つけたみたいだった。 古泉君は、弾をポケットに入れると、その一つを装填して構えた。手慣れたように見えたのはどうしてだろう。 「頼れる武器があると、やはり落ち着きます」 こんな物騒なものを手にして落ち着くなんておかしいけど、今は命の危険に晒されているのだから、古泉君が正しいと思う。 「この世界がゲームと同じなら、武器はいろいろと見つかる筈ですね」 なるほど、だから学校にそんなものが置いてあるのね。 あたしも何か役に立ちそうなアイテムはないかと見回すと、傘立てに傘に混じって何かが立ててあった。 手に取ると、日本刀だった。鞘に紐がついていたので、それを腰に巻いて結んだ。 「いいものを見つけたみたいですね」 ショットガンを持った古泉君が言った。 「僕も近接武器が欲しいですね。ショットガンには弾に限りがありますから。銃身で殴るには少々重たいですし」 ズズッ…… その時何かの音がした。 「おやおや、歓迎でも来たようですね」 勿論そのままの意味でないことは知ってる。敵でしょ。 廊下で何かが動いていた。 それが這ってこちらに来ている。だんだんとその姿がはっきりと見えてきた。 ゾンビというのかは分からないけど、人の形をした血まみれの気持ち悪い生き物が近付いていた。 「涼宮さん、下がって下さい」 「いえ、その必要はないわ……」 あたしは刀を鞘から引き抜いて、銀色に輝く刃を見つめた。 決心したんだもの、あたしはキョンの仇を討つまでは……いえ、討っても死ねない! 「弾はもしもの時の為にとっときなさい!」 あたしは目の前の敵に向かって走った。 あたしの姿を認めるとそいつは何やら呻いていたけれど、そんなの気にせずに素早く背後に周りこんで、これでもかという位に斬りつけた。 背中から血を噴き出してもがいていたけど、蹴りを一発お見舞いしたら動かなくなった。 「す、凄いですね涼宮さん」 古泉君の視線で、あたしは大量の返り血を浴びていた事に気付いた。それを見たから、古泉君は少し驚いたのだろう。 「この調子ならノーダメージでいけそうね」 「では、行きましょうか」 1F 薄暗い廊下を歩いて行く。目的地は分からないけど、学校のどこかにアイツはいるから順番に回っていけばいつか見つかるだろうし。 古泉君が腕を組んで壁とにらめっこをしていた。 「これは……困りました。ここには手洗い場があったはずなんですが」 確かに、ここにはトイレがあった筈なのに、真っ赤で気味の悪い壁しかない。 「どういうこと……?」 「特に仕掛けもないようですし、配置が変えられていると考えるのが一番かと」 配置が変えられているだけじゃなかった。とても学校とは思えないくらいに廊下が入り組んでいた。 「なによこれ、迷子になっちゃいそう」 迷宮のような廊下を真っ直ぐ進んで行くと、机と椅子が山のように重なっていて行く手を阻んでいた。 「」 「これはどかしようがありません。仕方ありませんので、引き返しま……」 振り返った時に、あたし達は硬直した。 おぞましい生き物が天井からぶら下がってこちらを見ていた。 さっきのとは形が少し違う。天井から人間の上半身が生えているようだった。 あたしは思わず叫んだ。そして、 「よくも脅かしてくれたわね……!!」 冷静さを失っていた。 刀でこれでもかと言う程に斬りつけた。 「涼宮さん……落ち着いて下さい!」 古泉君があたしを止めた時には、その生き物は原形を止めない程になっていた。 説明してほしい? 簡単にいえば乱切りよ。それ以上は言いたくないから。 あたしは肩で息をしていた。なんでこんなにムキになっていたのだろう。 「冷静になることも必要ですよ。体力も消耗しますし」 古泉君は少し怯えた表情であたしを見ていた。自分の言動で逆上されることを恐れているようだった。 なんだか腫れ物に触るような扱いに感じて悲しくなった。 行き止まりから引き返す途中、あたしのクラスの教室を見つけた。 「何で気付かなかったのかしら」 ちょっと期待してたけど、中に入るとあたしの席もキョンの席も、やっぱり血がべっとりとついていた。 キョンの机の中から何かがはみ出ていた。出してみると箱があり、その中に拳銃と幾つかの弾倉が入っていた。 「何でわざわざ箱に入れてあるのかしら」 疑問に思いながらも拳銃をポケットにしまった。 「おや、これはこれは」 「どうしたの?」 古泉君が掃除用具入れから鉄パイプを見つけていた。 「手頃な武器が見つかりました」 感触を確かめるようにパイプを振っていた。 「ねぇ、おかしいと思わない?」 古泉君は表情を引き締めた。 「ええ、確かに招き入れた割に大した罠もなく、かつこれだけ武器が用意してあるというのは少々不自然です」 「だとすると、この世界にあたし達の味方がいるのかしら」 「そうとも考えられます。しかし過度の期待は禁物です。このように武器を提供するので精一杯なのかもしれませんから」 2F 階段を上ったところでいきなり現れた巨大化したゴキブリみたいな虫の大群に対し、古泉君の鉄パイプが早速活躍した。 古泉君が何とかしてくれていなかったら、あたしは卒倒してたかもしれない。想像してごらんなさい、でっかいゴキブリが顔めがけて飛んできてかじりつこうとしてくるのよ。生きた心地がしないわ。 虫の大群はいまや抜け殻の山となっていた。それを蹴散らして廊下を進み、部屋を確認していく。 「……あった!」 こんな所に部室があった。SOS団と書かれた紙に希望が膨らむ。 でも、扉をあけて中に入るとやはり酷い有り様だった。 「うわ……」 本が棚から崩れ落ちたままの状態で埃をかぶり、みくるちゃんの衣装までもが血で染まっていた。 だけどそんな中で唯一、パソコンだけが血を浴びずに綺麗なままだった。 それには二人ともほぼ同時に気付いた。 「古泉君、あのパソコン」 「何かヒントがありそうですね」 「やっぱり味方がいるって考えで正解みたい。よかった」 スイッチを押すと、黒い画面に文章が現れた。 『このメッセージは条件を満たすと表示されるものであり。そちらとの疎通は出来ない』 あらかじめ用意されたプログラムってことかしら。 『裏世界と呼ばれるその空間は現実から隔離されている別の世界』 これは古泉君から聞いたから知っている、でも、その後に表示された一文にあたし達は首をかしげた。 『しかし、神がその世界を支配すれば、その世界が現実となる』 ……つまり、この気持ち悪い世界が現実と入れ替わるってこと? 冗談じゃないわ。 それより、気になる単語があった。 「神とは何のことでしょうか……」 「少なくとも、良い神じゃなさそうね」 パソコンは神ついて詳細を述べることは無かった。でも、そいつにこの空間を支配されたらおしまいってのは分かった。 『クリーチャーは貴方達の憎悪や恐怖が実体化したもの。冷静さを保てば遭遇する頻度は下がると予測される』 つまり、あたしがもっと冷静になれば厄介な敵は現れなくなるってこと? 「ごめんね古泉君、こっからはもっと落ち着いて行動できるように気をつけるわ」 「いえいえ、謝らなくて結構ですよ」 *** 朝学校に来ると、ハルヒがいなかった。珍しく遅刻をしているようだ。 あくびをしながらその空席を見ながら座った時だった。 喜緑さんが教室にやって来た。そして真っすぐに俺のところに歩いてくる。喜緑さんが俺に用があるということは何かでっかい事件があったということだろうか。 「涼宮さんが登校途中で倒れて病院に運ばれました。これは緊急事態です」 いきなりのことに、俺は仰天した。 「なんだって……?」 俺は机上に置いたばかりのカバンを再び持つと、喜緑さんと一緒に教室を出た。授業? サボりというやつだな。 外で朝比奈さんが待っていた。 「キョン君……涼宮さんが……」 「喜緑さんから聞きました。早く病院に行きましょう」 「こちらに来てください」 喜緑さんに手招きされて近づいた瞬間、世界が一変した。 「へ?」 「ん?」 いつの間にか病院の前に立っていた。空間移動をしたらしい。 って古泉はいないが置いて来たとかそういうことはないですよね。 「既に病室にいます。詳しい話は皆さんが揃ってからに」 病室に入ると、ベッドでハルヒが眠っていた。その傍で古泉が待っていた。 「待ってましたよ」 「ハルヒは一体どうしたんだ」 「目撃者の話では、歩いていて突然全身の力が抜けたように倒れたそうです。その原因は……」 「それは私が説明します」 喜緑さんが割って入った。そんなに難しく深刻な話なのだろうか。心配になってきた。 「現在、涼宮さんの精神は抜き取られて別の世界に閉じ込められているようです」 別の世界って……。 「その空間に干渉しているところですが、情報改変が殆ど出来ていません。彼女にヒントや武器を与えることが精一杯です」 武器? どういうことだ、そんなに危険な世界なのか。 「簡単に言うと、サイレントヒルの裏世界、という表現が貴方がたには一番分かりやすいと思います」 「ぇぇっ?」 隣で朝比奈さんが俺以上に驚愕していた。朝比奈さんも知ってるんですか? 「はい、ホラーゲームの初期作の一つとして有名ですから……。でも、あんなゲームの世界に閉じ込められるなんて……」 そこで朝比奈さんがハッとした表情を見せた。 「もしかして昨日の……!」 「昨日ハルヒがうなされてた悪夢のことですか?」 「はい、それが何なの予兆だったのかもしれないです」 「そんなことがあったのですか。やはり狙われていたようですね」 喜緑さんの言う『狙われていた』というのはどういうことなのだろうか。 「閉じ込められている目的は何なのですか」 喜緑さんは古泉の質問に一切のタイムラグなく回答した。 「彼女を閉じ込めた相手はあくまで本気のようで、ゲームの様に楽しませる積もりは毛頭ないようです。相手の目的は、彼女を生け贄にして神を生み出し、その力で裏世界を現実と入れ替えることと推測されます」 生け贄……? おいおいまてよ。 それって、つまり……。 このままじゃハルヒが殺されるのか!? 「なんとかして助けられないんですか!?」 「何度も裏世界の改変を試みましたが成功していません。また相手の正体は不明で、神がどのような力を持つかも推測に過ぎません」 「そういえば、長門さんはどうしたんですか?」 朝比奈さんの一言で思い出した、長門がいない。なんでこんな時にいないんだ。 「長門さんは……隣の病室にいます」 なんだって? 「彼女は裏世界への侵入を試み、現在涼宮さんを捜索中です」 *** 涼宮ハルヒの精神が隔離された空間への侵入を試みたところ、突然「目眩」という症状を起こし、気付くと学校にいた。 しかしそれは全く似て非なるものであった。配置が著しく変えられた校舎内はどこも血痕だらけで、とても禍々しい光景だった。 ここに涼宮ハルヒがいる。 ……おかしい、統合思念体との連絡がとれないので現在の状況すら把握出来ず、おまけに情報操作が全く行えない。 有機生命体の五感を頼る他ないようだ。 前方に何かがいた。 *** 3F 階段を登り終えたときから古泉君の様子がおかしい。 さっきから落ち着きがないし、まるで風邪を引いたみたいに震えて呼吸も荒い。 「古泉君、大丈……」 思わず後ずさりしてしまった。 古泉君の腕が、ところどころカビのように黒くなっているのが見えた。 「こ、古泉君?」 もう、古泉君は古泉君ではなくなっていた。 「亜阿あああぁ唖あああああああああ!!」 古泉君は意味不明な言葉を叫ぶと持っていた鉄パイプであたしを殴りにかかった。 あたしはなんとか避けたけど、古泉君はまだあたしを狙っていた。 走って逃げたけど、向こうも走ってくる、逃げるのは無理みたい。 振りかぶった隙に鉄パイプを奪い取ることには成功したけど、古泉君は素手での攻撃を止めない。何度も何度も掴み掛ろうとする。 「ちょっと…………やめ……て……」 「ぁぁぁぁぁぁぁ………………あはははははは……!」 古泉君があたしの首を締めようとしてくる。あたしはポケットから拳銃を取り出した。古泉君を突き飛ばしてその隙に距離をおき、構えた。 「ごめんなさい!」 拳銃の弾は、古泉君の頭を貫いた。糸が切れた操り人形のように倒れ、もう動かなかった。 「古泉君……何で……?」 なんでさっきまで味方だったのに突然こうなったの? しばらくして落ち着きを取り戻してから、古泉君の服のポケットからショットガンの弾を取り出す。 その時、何かが光っているのが見えた。古泉君の首に紐に通された鍵がかかっていた。 鍵には「体育館」と書いてある小さな紙が貼ってあった。 *** 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 理解不能、私にはそのような「感情」など……。 では、どうして呼吸が乱れている? どうして過度に背後を警戒する? どうして前進を躊躇う? どうして? それらの自問に答える事が出来なかった。 幾度となく殲滅させた筈のクリーチャーが再び現れた。彼らは執拗に私を喰らおうとやってくる。 それに対して、箒を分解して金属製のパイプのみにしたものを応急的な武器としているが、簡単に折れてしまいもう箒の残りは少ない。持久戦になればこちらの劣勢は明らか。 早急に新たな戦法を練らなければならない、そう思った時だった。 机の上に、いつの間にか機関銃が置いてあるのが視界に入った。 それを手に取った瞬間、メッセージを受信した。 『私達に出来るのはこれ位だけど、これで思いっきりやっちゃいなさい!』 「朝倉涼子……」 統合思念体の干渉はこれが精一杯のようだ。しかし……、 「充分」 私はその機関銃を手にすると、向かってくるクリ―チャ―を飛び越えて走った。 この裏世界はゲームではない。 たとえチートと言われようと構わない。 あらゆる手段を尽くして、この世界を終わらせる。 *** しばらく目を閉じていた喜緑さんが目を開けた。 「裏世界の観測が可能になりました」 待ちに待った知らせだった。ここに来て数時間ずっと気になっていたことをぶつける。 「ハルヒは、長門はどうなってるんですか!?」 「現在は二人共に大丈夫のようです。しかし、裏世界ではキョンさん、古泉さん、朝比奈さんは死んでいます」 「なんだって……?」 「あくまでもあの空間は仮想のものであり、そっくりにコピーしたものです。しかし、世界が入れ替わった場合はそれが現実となり、その時にはあなた方は消えてしまいます」 俺達三人は固まってしまった。 十数秒たってから、その静寂を破るように、朝比奈さんが消えそうな声で言った。 「消えちゃうんですか……」 「……くぅっ……」 ハルヒがまた苦しそうな声をを漏らした。 自分に何もしてやれないことに腹が立つ。俺達はハルヒに触れることすら許されない。接触すると相手に何かされる懸念があると言う。 目の前で苦しそうに顔を歪めながら眠っているハルヒを見てやることしか出来ない。 頼む、頼むから、無事に目覚めてくれ……。 俺達には祈ることしか出来なかった。 *** 体育館 「やっと来たのね」 古泉君の持っていた鍵で扉をあけると、体育館で待っていたのは予想通りアイツだった。 ここも照明は機能してないけど、霧がわずかな明かりとなってアイツの顔を照らしていた。 ここに来るまでに、アイツの正体はなんとなく分かっていた。 アイツの声は聞いたことがなかった。何故なら、それが自分の声だったから。 「アンタがこの世界のあたしなの?」 「そう、だったら何?」 「何でこんな事をしたの」 「この世界は唯のコピー、いつかは消される運命にある。それが気に入らないの。だから神の力でこの世界と貴方の世界を入れ替えてこの世界を本物にするの。みんな、神を生み出すのに必要な犠牲だったのよ」 神……? 「紹介するね、これがこの世界の神よ」 暗くて気付かなかったけど、アイツの隣に巨大な化け物がいた。 あたしが想像する神は、宗教とかそんなの抜きでももっと綺麗なものだった。 けど、目の前に現れた神は、とても神とは呼べないものだった。 5メートルはあろう神だという生物は、人の形はしているがひどく痩せていて、やはり血まみれだった。 「神は絶対的な存在よ、全てを支配するの。だから、人間は神にはなれないの」 アイツが話を区切る度に静まり返る体育館。「神」がこちらを見ている。その視線を受けたあたしは一歩も動くことが出来なかった。 「この神はまだまだ未熟だから、憎悪という感情が足りないの、だから貴方が神に必要な生け贄に選ばれた。そんな貴方がちょっとでも強力になってもらう為にあの男を殺したの」 あたしの怒りを増すためだけにキョンを殺したなんて……。 でもあたしは何も言えなかった。それに対して怒れば相手の思うつぼだし、こんな魔物の生け贄に選ばれたことがショックだった。 「神に逆らうことは許さない。例えあたしでもね」 突然、「神」はアイツを手にとり、じっくりと舐めるように眺めていた。 「あら、神は貴方よりあたしを先に欲しいみたいね」 「な、何言ってるの? アンタも殺されるのよ」 「いいえ、光栄なことよ。神のヴィクティムになるのだから……」 神は我慢できなくなったのか、突然そいつをまるでスナック菓子のように喰らいついた。 アイツの身体が噛み切られて……。これ以上言わせないで。 「う……わ……………………」 あたしはとっさに目を瞑り、耳を押さえた。それでも骨の砕けるような嫌な音が響いていた。 しばらくして音がなくなった。 どうやら食事が終わったらしいので目を開けるた。「神」は血をぼたぼたと垂らしながらあたしを見ている。 次に喰われるのはあたし。 アイツへの復讐は出来なかった。でも、この「神」とやらをなんとかしないと、この世界は終わらない。あたしは、ショットガンを構えた。 「くたばりなさい!!」 引金を引いた瞬間、強い衝撃で肩に痛みが走った。 あたしのような体格では、反動の大きなショットガンは身体に負担がかかることは百も承知。 でも、これは遠距離からでもダメージを与えられる数少ない武器だから、それくらいは我慢。 肩の痛みを堪え、次々と弾をこめては頭を狙って撃ち続けた。 ダメージがあったのか、「神」は呻き声を上げている。 「やったかしら」 油断してしまった。次の瞬間、その長い腕でなぎ払ってきた。 避けようとすることすらできなかったあたしの身体は宙に浮き、十数メートル飛ばされて叩きつけられた。 何とかして立ち上がったけれど、全身が打撲で痛い。ショットガンもどこかに飛んでいってしまった。こんなに暗い中ではすぐには見つからないから諦めるしかない。 「いっ……たいじゃない………………!」 あたしはふらつきながらも再び「神」と向き合い、拳銃を撃ちながらショットガンを探した。 でも「神」は怯むことなく迫ってきて、またその腕に弾き飛ばされた。 「ぅう……」 床に叩きつけられたときに頭を強く打ってしまい、立ち上がることが出来なくなっていた。 拳銃も暗闇の中に消えてしまった。 近づいてくる「神」から逃げようと痛む四肢を必死に動かして床を這ったけど、すぐに追いつかれてしまった。 あたしはとうとう「神」の手で押さえ付けられてしまった。腰には日本刀があるけど、激しい痛みで手が動かなくなっていた。 血でべとべとの「神」の手に圧縮される気分は最悪だった。 苦しい、息が出来ない。こんな化物に食べられるなんて……。 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 叫んでもここには誰もいないから無駄なことは知ってる。けども、最後までこいつに抗っていたかった。 その時、「神」の荒い呼吸に混じって、誰かの足音が聞こえてきた。 「させない」 ……有希!? 銃声が絶え間なく響いていた。「神」はたまらず悲鳴を上げてのけぞり、あたしはなんとか手から解放されたた。 視界が開けて、音のする方向を見ると有希がマシンガンを撃ち続けているのが見えた。 何十発撃っただろう、「神」は遂に倒れた。それでも有希は「神」が完全に動かなくなるまで攻撃をやめなかった。 マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 窓から眩しい光が射している。霧が晴れて、青空が見えた。 外に出ると、校舎は相変わらずだったけど、空気はよどみがなく透き通っていた。 太陽が眩しい。あたしと有希は、その光に包まれていった。 *** 涼宮さんが目を覚ましたようです。 状況説明が困難な為、長門さんが隣の病室にいることは涼宮さんには内緒になっています。 「…………」 涼宮さんと同時に目覚めた長門さんは、ぼんやりと自分の手を見つめていました。 「どうしました?」 「大量のエラーが発生している。身体の制御すら上手く出来ない」 彼女の手は震えていました。 「もう大丈夫ですよ」 私はそっと彼女を抱き締めました。彼女は私に顔を埋めていました。おそらく、泣いていたのだと思います。あくまでも推測ですよ。 数分間そのままでいましたが、長門さんが離れました。 「エラーの削除が完了した」 「では、そろそろ涼宮さんの所へ行きましょう。貴方は涼宮さんにプリンを買いに行ったことになっています」 「……分かった」 「では、情報操作を始めますね」 その時、彼女が小さな声でありがとうと言いました。少し恥ずかしそうでしたね。 情報操作により、私以外は今回の事件についての記憶を失い、長門さんは涼宮さんの見舞いに来たことになりました。これは、トラウマと呼ばれる精神状態に陥らない為の救済措置です。 さあ、私はこの病院にはもう用はないので学校に戻りますね。 それでは失礼します。 inspired SILENT HILL 3 おまけ 長門有希がビビりプレーヤーだったら 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 それらのエラーを言語化するならば……、 「帰りたい……」 いっつも助けてくれるパパ(統合思念体)との連絡がとれないから、一人でなんとかするしかない。 でも、この間キョン君に借りたゲームをしたばっかりだから怖さ倍増なの……。 どうしよう、有希泣きそうだよ……。 「こわいよパパ……」 あー来る、こういう所絶対何か来る。ドッキリ要素というものが絶対ある。 こういう時は……、歌を歌おう。 「ある~はれ~たひ~のこt」 ガッシャーン! 突然ドアを突き破ってクリーチャー登場。 「POOOOOOOOOOO! ふっざけんにゃよ! もーやだ! 無理! 終了! 終了!」 私は走りながら思い切り泣いた。いいもん、誰も見てないから……。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんパパァァァァァァァァ~~!!」 MISSION FAILED... おまけ 2 あのEnd マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 突然、窓から眩しい光が射した。 「なにあれ!?」 空中に浮かぶ複数の円盤、それは……、 ま さ に U F O 「有希! UFOよUFO! これは調査しなきゃSOS団の名が廃るわ! あたし達の活動を全世界に広められるチャンスよ!」 あたし達は外に出た。グラウンドに着地していたUFOは合計三機。中から出てきたのは、期待通りの宇宙人! 「ユ、ユニーク(タコさんウインナー……)」 「ねえあなたたち! どこから来たの?」 「 %*#\$@=-@!」 「な、何言ってるのかサッパリね……」 「意思疎通は困難と思われる(おいしそう……)」 「+ |\ ; *// #!」 宇宙人が取り出したのは、光線銃? ビビビビビビビビビ いきなり有希が撃たれて倒れた。有希は痺れて動けない様子だった。 「………………ユニー……ク…………(一口だけでもかじってみたかった……)」 「有希ー! 有希ー! ユニークとか言ってる場合じゃないわよ! アンタ達! 何するのよ!」 「 *#/(^^) $/-!」 すると今度はあたしに光線銃を向けた。 「な、何よ! やめなさ……いやあああああああああああああ!!」 そして動けなくなったあたし達はUFOに乗せられて…… ユニーク(笑)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5826.html
俺はドアを開けた。 「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」 「 」 思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。 「 」 窓のそばに立ち、外を眺める少女。 「…ハルヒ。」 呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。 「おい、ハル」 「何しに来た?」 …… 明らかな拒絶。 …覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは… 俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。 記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。 「お前は…ハルヒじゃないな。」 「 」 『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。 始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に 神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を 各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』 長門の言葉を思い出す。 「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」 …… 「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」 「 」 …… 「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」 「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」 「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」 淡々とした 冷酷な口調。 …時計を眺める。 23時56分 時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ! 「…力づくでもお前を止める。」 …… 「まったく、呆れる 力でしか物事を解決できない それが人間 」 ッ!! 「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする… お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」 「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」 「何をワケわかんねえことを…ッ!」 …… 『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、 だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に 宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』 ハルヒが昔言っていた。 …こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。 「ハルヒは…」 「 ?」 「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」 そうだ…あいつは言っていたんだ…! 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている… それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。 そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。 人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』 「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、 お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」 「だから何?」 「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」 「 ?呼び戻す必要性が感じられない 」 「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのは!!!仮にも分身だと言える そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」 「この人間のことなど知ったことではない」 躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。 『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』 「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」 「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」 …… 今…何と言った? 「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」 「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、 私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には 消えてもらう」 「……ッ!」 俺はある種の恐怖を覚えた こいつは自分以外の存在を 単なる道具としか思っちゃいない …時計を見る。 23時58分を過ぎている… 時間が…ない!!! …ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか… そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!? とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ… 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』 つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、 殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで… この世界の崩壊は止まらない。 …まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、 この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい! 誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない… そんなリスクを犯すはずがない…!! どちらにせよ事態の好転は望めない。 じゃあどうすんだ!? …てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。 …… 一人間である俺が どうやって?? …時計を見る --------------------------------------23時59分 ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!? みんな…ゴメン… …… 『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』 『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』 『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』 !! 俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!! 俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ! …そもそもである。 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』 この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか? ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。 裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。 世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。 つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。 …覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった? 【前時代の記憶を取り戻す。】 これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。 だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。 目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。 それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。 …俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。 1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。 そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい? …思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。 第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。 …要約すればこういうことだろうか。 しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…? 「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する これで第四世界も終わり 」 …数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!! ッ!!! くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!! 9 …ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!? 俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!! 8 『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』 7 朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!?? あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした?? 6 …俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか 5 【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!? 状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 …ハルヒを!守りたい…!!!】 4 朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した? 世界の人々?家族?友人?いや…違う 3 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』 2 彼女の最期の言葉が それを物語っていた 1 「 」 「 」 「!?」 「…何を し 計画 計画 が あ 、あああ !? ああああああああああああああああ!!!!!!」 12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか -----------神は発狂し始めた …… 俺は今 一体何をしたのだろうか …反射だ 小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか? 特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。 熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。 わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。 …厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。 …… 机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。 それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。 俺は涼宮ハルヒめがけ 麻酔銃をぶっ放していた 「意識 意識がぁ っ!」 ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。 …麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか? …… …なるほど、 【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】 この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。 記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。 『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』 本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。 神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。 …それを知ったハルヒはどうするだろうか? 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている… それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。 そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』 極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を… 見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…! 『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』 もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。 話は次の段階へと進む。 望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合… 結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。 だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。 以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』 と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが 『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』 という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。 その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。 結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で 1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。 『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』 …試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。 つまり 涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段 俺が言いたかったのはこの一点である。 ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら 一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。 仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が 無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…? 言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。 言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には 宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。 だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!! …… 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』 朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、 俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。 …そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!! その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。 神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。 『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』 こいつの言っていることは一理ある。 例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで… それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。 かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。 頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!? 仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!?? 痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。 では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには… どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか?? …もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。 …… 『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』 俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ 意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが現状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。 …ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。 めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。 …… あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が 生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…?? 麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。 かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。 だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!? と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!! しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。 だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。 俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。 …そして、先ほどの冒頭に戻る。 「ぁあ くっ っ!」 今にも意識を失いそうな少女がいた。 …… 時刻は0時1分 窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。 まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは 12月2日0時0分世界崩壊 回避した 12月2日0時0分世界崩壊 確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!! これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。 …俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。 …… 古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。 だからこそ失敗は許されなかった…!!ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから!! 「…、キョン…ッ」 …!? 急にハルヒの声色が変わった。…まさか 「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」 すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。 「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」 「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」 「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」 そうだったな…すまん、ハルヒ。 「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」 所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。 「よく…戻ってこれたな…。」 「…え?」 「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだ。」 「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。 隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」 「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」 「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが… できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね… こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には… 正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…! 【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」 「…まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな。俺は、その期待に応えることはできたか?」 「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」 「…そりゃそうだよな。」 「でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」 …… 今更ながら驚く。 俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、 世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を 止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。 …ハルヒには感謝せねばならない。 「…それで、全て思い出したのか?」 「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、 そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」 「…そうか。」 「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね… もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」 「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」 「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」 「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、 無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」 「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い… になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」 …!! 確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体?? 「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」 「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」 「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう? あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」 …… 【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…? …夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。 あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか? 【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。 …… 「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど 残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」 「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。 俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」 そう、まだ終わっていない。 12月2日0時0分世界滅亡 確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。 この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。 …当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、いまだその遂行に励んでいるのだから。 極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。 「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」 「…後、20分もしないうちに突入よ…。」 「20分だと!?」 どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。 「畜生…!一体どうすれば」 「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」 「…ハルヒ!?どうした!?」 「麻酔が…まわって…きたみたい」 「ッ!!」 麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ! 「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」 「…残念だけど…、それはできない…。」 「どうしてだ!?」 「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を 削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」 「…!」 「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」 「!?神を…倒すのか!?」 「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。 一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!! なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!! だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」 …… 俺から言うことは何もない… ハルヒの覚悟は本物だ…! 「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」 「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」 5分 …… 5分 胸に突き刺さる このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。 止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと… そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!? 「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…! それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」 俺は…何をやってるんだ…? 確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる 当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…? …最低だ。俺は。 …… 『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には 本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』 『……』 『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。 今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。 それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』 『……』 『だから』 『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし 何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ… だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』 『キョン…ありがとう。』 突然のフラッシュバック …… そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!! あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!? 「ハルヒ…!」 「…!?キョン…!?」 俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった。 「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」 「…?」 「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」 「…古泉君が。」 「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」 「…有希…みくるちゃん…。」 「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」 「…!!」 「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!? SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より… 誰よりもそれを知っているはずだ!!!」 「キョン…っ」 「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。 …けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…! 【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…! 俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」 「キョン……ッ!!!」 …… 「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」 …… 「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね… でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる…!! だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」 「…ああ、もちろんだ。」 一体どれだけの時間が経過しただろう。 「キョン…」 「…何だ?」 「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」 「…俺はな、お前にならできると思ってた。」 「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」 「…ちょうど5分ってとこだな。」 いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ 「あたし…頑張っ…た…よね?」 「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」 「…神の…声が…聞こえない…」 「…やったな…ハルヒ…ッ!!」 「声が…聞こえ…ない…」 神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる その声が----------------------------聞こえなくなった …… つまり、神は消滅した はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。 予防線を張っておく あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる?? …… それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。 死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。 「ハルヒ!おめで…」 …? 「ハル…ヒ?」 …いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。 「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」 …… デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。 海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。 「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。 あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」 …ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。 「ハルヒ…お前、麻酔は…?」 「……」 …… 「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる… だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。 そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」 今、何と言った? 「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」 「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」 …… 「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」 「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、 ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。 本当に神が消えていれば…ね。」 「……」 ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。 …… 「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」 「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う… 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」 このハルヒとは二度と会えない …会えない …… なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…? …… 俺は…こいつに 何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…? ------------------------------------------------------------------------------ あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。 ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。 今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。 そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。 …… 「ハルヒ……ハル…ヒ………」 いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。 …… 遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。 もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば… そんときは俺の代わりに『この思い』 ハルヒに伝えてはくれねえかな? 俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。 だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。 ハルヒと一緒に。 ------------------------------------------------------------------------------ そうだったよな?あのときの俺… 「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」 「…キョン?」 「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」 「…?」 「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」 「俺は…お前のことが ……、大好きだ。」 「!!」 …… 「……」 「……、」 「……」 「……、、」 …ハルヒ? …… おい、どうしたハル …… 泣い…てる…? …… 「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」 「……」 「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」 「ハルヒ…。」 「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、 でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」 …… 『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』 …… 「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」 「……」 「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…? あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」 …そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。 「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」 俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。 …不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…! 「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」 「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」 「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」 「…当たり前だろ。」 「……」 ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。 「…あたしね。」 ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。 「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、 だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、 憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは 何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに… そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは 動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、 運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」 …… 「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら? いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」 「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」 「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。 だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」 …… 「…時間…ね、」 「ついに…きたのか…。」 「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。 神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」 「そうか…寂しくなるな。」 「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」 「そんくらいわかってるぜ。」 「なら、紛らわしいこと言わないの。」 「……」 「な、何よ?」 「ハルヒ…」 …… 「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」 「……」 「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で 普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」 「…もちろん、それはあんたがするのよね?」 「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」 「そゆこと。」 「まったく…お前には敵わんな。」 「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」 「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」 「わかってるのなら、それでいいわ!」 「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」 直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。 …ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。 彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。 「ハルヒ…また会おうな。」 そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。 …… その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。 以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。 閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう 世界は?天災は?神は? …… いつもと変わらない日常風景が広がる世界 凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界 …俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか 前者であることを信じたい …俺は 意識を失った
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3906.html
6 章 出社するとハルヒが雑誌を読んでいた。 「フフン~」 やけに上機嫌だ。雑誌を眺めるハルヒは、野郎がえっち本を見るときにでもしないような気味の悪いニタニタ笑いをしていた。見たところ、OggiとかMOREとか、ふつーに本屋の店頭にありそうな女性ファッション誌だが。 「なんか面白い記事でも書いてあったのか?なんでゴム手袋なんかはめてんだ?」 恐る恐る尋ねてみる。 「まあね、ちょっと見てよこれ」 二つ目の質問には答えてないぞ。なんだ、俺には女性誌を見るような趣味はないんだが。俺はハルヒの脇から雑誌の写真を覗き込んだ。 「あ、触っちゃだめよ。指紋つけないで」 「なんだ、いつから潔癖症になったんだ」 「このモデルの後ろに写ってる車、トヨタの新型よね」 「あーん?こんな流線型の車見たことねえぞ。プロトタイプとかじゃねえの?」 「そりゃそうよ。まだ出てないもの」 ハルヒはそう言って雑誌の表紙を見せた。モデルの服装は前衛的といか超機能的というか、シンプルというかそっけないというかそんな服だった。最近の流行ってこんななのか。と、どうでもいいような感想を述べようとしたところ、ハルヒはそんなことはどうでもいいのよという感じで発行年月の数字を指差した。 「おい、なんだこりゃあ、十年後だぞ!」 「あーもう、指紋つけないでって言ってるのに」 「未来の雑誌なんてどこで手に入れたんだ」 「あたしに頼んで送ってもらったのよ」 なるほど、頭いいな。 「未来の情報はおいそれとはあげられないとか言ってたから、せめてファッション誌くらい見せなさいと手紙を書いたの」 「それでこのファッションデザインなのか。どうりで時代離れしてると思った」 まあそれくらいの情報なら問題ないだろう。 「それだけじゃないのよねえ」 ハルヒはまたさっきと同じニタニタ笑いを浮かべた。机の上には化粧品のパウダーっぽいやつ、虫眼鏡、なんだか分からない液体の入った小瓶があった。 「なんだそれ?」 「まあ見てなさい」 ハルヒは卓上ライトをつけて、雑誌の表紙を覗き込んでアイシャドウの粉をふり撒いていた。化粧用の小さなブラシっぽいやつ、虫眼鏡を見ながら粉を塗っていた。それから雑誌を持ち上げてふっと吹いた。 「ぶ……ぶえっくしょん!!は、鼻に、えーくしょい!!」 ひとりでなにやってんのお前。ずずっと鼻をかんだハルヒが見せたものは、表紙に浮かび上がった指紋だった。ハルヒは黒いシールみたいなやつを取り出し、透明の部分を指紋の上に貼ってゆっくりとはがした。ゼラチン紙とかいうらしい。 「どう?バッチリでしょ」 そういや長門もやってたな、あんときはエンピツの芯の粉だったか。 「ああ、エンピツの粉は白いモノについた指紋を取りたいときね」 「やけに詳しいなお前」 「当然でしょ、あたしが名探偵だったのを忘れたの?」 探偵バリに推理を聞かされたことはあったが、まさか鑑識をやるとは聞いてないぞ。 「キョン、あんたの指貸しなさい」 「お、俺がなにかの犯人みたいじゃないか」 「いいから見せなさい、はぁやくぅ」 ハルヒは俺の腕をむんずと掴んでガラスの板に押し付けた。 「古泉くん、有希、あんたたちも見せてくれるわよねぇ」 ハルヒがニコニコ顔で言うと、古泉は苦笑しつつ、付き合ってやるかとしぶしぶ承諾した。ハルヒを名探偵に仕立て上げたのはそもそもこいつなんだからな。長門はなにも言わずに指紋を取らせた。 「うーん、キョンじゃないわねぇ。有希でもない。どう見てもあたしの指紋しか、ああーっ!!」 熱心にルーペを覗き込んでいたかと思うと奇声を上げた。 「どうした!?」 「古泉くんの指紋発見!!」 「え……」 別に驚くようなことじゃないんじゃないか?古泉が読んでたのかもしれんだろ。 「問題はそこでしょ。古泉くんがなぜ女性誌なんか手にしたのか」 「し、知りません。僕にはまったく心当たりありません」 当たり前だろ。なに焦ってんだ、返って怪しいぞ。 「古泉くんの指紋、右の親指ねこれは。切り傷があるわ、かなり深い。予言するわ、古泉くんは十年以内に親指に怪我をする」 それは予言じゃなくて指紋検出の結果を述べただけだが。古泉はまじまじと自分の親指を眺めた。そんな十年先の指の具合なんて今から心配してもはじまらんだろうに。 「そういうわけだから、親指には注意してね古泉くん」 「ご忠告ありがとうございます」 古泉はまた苦笑を浮かべた。こいつが親指をザックリ切っちまうのは、まだ先の話だ。 ハルヒがなにごとか思い立ったように出て行った隙に、古泉が耳打ちした。 「もしも僕が怪我をしなかったら、どうなるでしょうね」 「それくらいの未来は変わっても問題なさそうだが」 「もしもこれが既定事項なら?どんな些細なことでも変更すると大変なことになります」 ハルヒと入れ違いに朝比奈さんがやってきた。 「ごめんなさーい、遅れちゃって」 「朝比奈さん、ちょうどいいところへ。これを見てください」 俺はハルヒの机の上にある雑誌を指差した。 「これファッション誌ですよね。ふつうに本屋にある。わたしもときどき読んでますよ」 「ええ。十年後の発行ですけど」 「あらあら、まあ。どうしたんですかこれ」 「未来から送ってきたらしいんです」 「涼宮さんにも困ったものね。いくら雑誌でも未来の情報には変わりないのに……へー、こんなの流行ってるのね」 朝比奈さんがパラパラとめくりはじめた。そこで立ち読みしないでくださいよ。 「それにしても、なんで僕が女性誌なんか持ってたんでしょうかね」 古泉がいつまでも首をかしげていた。ドアが開いてハルヒが戻ってきた。 「あら、みくるちゃん来てたのね」 「おはようございます、遅れちゃってごめんなさい」 「それより見て見て、未来の雑誌よ。流行の最先端の百歩くらい先を行ってるわ」 先を行き過ぎて道を踏み外しそうだがな。 「見ました。こんな服、わたしも欲しいなぁ」 「タイムマシンが完成したらみんなで買い物に行きましょう」 「あ、いいですねぇそれ」 素直に賛同してみせている朝比奈さんが冷や汗を垂らしていることは、俺にはお見通しだ。 ハルヒがジャラジャラと音がする布袋を置いた。小銭の音か? 「なんだそれ、小銭の貯金か」 「銀行に行って五万円を五百円玉に両替してもらったのよ」 「な、なんでそんな大量に」 「未来に買い物リストとお金を送って買ってきてもらうのよ」 「なんで五百円玉なんだ。お札でいいじゃないか」 「バカね、十年も先ならお札のデザイン変わってるかもしれないじゃないの。こういうときはデザインの寿命が長い補助貨幣のほうがいいのよ」 なるほどな。って五万円分は重いだろう。 「まあまあいいから。あんたたちも買って欲しいものがあったら五百円玉よこしなさい」 俺は、と考えてはみたが別に欲しいものなんてなかった。ほんとに欲しけりゃ朝比奈さんに頼めばいい。 「なあ、思ったんだが、別に現金でなくてもいいんじゃないか?」 「どういうことよ」 「十年先くらいなら銀行に預金して通帳かカードを送ればいいだろ」 「あ……」 さすがにそこまでは頭が回らなかったか。突っ込みどころが的を得ていたらしく、ハルヒは顔を赤くして重たい袋をえっちらおっちら背負って出て行った。また銀行に行ったらしい。 「たっだいまぁ!」 「おう、おかえり。通帳にしたのか」 「普通預金はやめたわ。銀行の人が十年動かさないなら長期国債がいいっていうからそれにしたわ。これもひとつの投資よ」 猫型ロボットの漫画でそういうネタがなかったか。 「買い物頼むだけじゃなかったのか」 「あたしへの投資よ。利子の分はあたしのお小遣いよ、キヒヒヒ」 俺はハルヒが持ち帰ったパンフレットを読んだ。年率にして0.85パーセントくらいか。ハルヒがタイムトラベルを使った財テクに走り始めたな。よくない傾向だ。俺はこっそり朝比奈さんに尋ねた。 「これまずいですよね」 「いいんじゃないかしら?銀行の定期預金に十年眠らせておくのとあまり変わらないでしょう」 「それはそうですが。金儲けのためにタイムトラベルを使うのは問題がある気が」 「まあ会社は金儲けのためにあるわけだし、それにまだ時間移動管理の組織が生まれるまではいいんじゃないかしら」 未来人の朝比奈さんがそうおっしゃるならいいんですが。 「わたしは知らなかったことにしますね」 朝比奈さんは人差し指を立ててウィンクしてみせた。そ、そんな。なんだか犯罪の共犯っぽいことをしてるようで俺は不安になった。今に未来警察とかがやってきてガサ入れされるんじゃないだろうか。 「うーん、株を買うのもいいかもねぇ」 ハルヒのブツブツいう声が聞こえて俺は朝比奈さんを見た。朝比奈さんは困ったような顔をして笑っていた。 ハルヒはまだ虫眼鏡で雑誌を調べている。 「まだやってんのか。なにか分かったか」 「ふふっ。あたしはあたしの経営者としての能力を甘くみてたようね」 なんか微妙に矛盾してないかそれ。 「こういうファッション誌は四半期くらいで流行ネタが変わるから、このデザインをまねして売れば儲かるわよ。パリコレを先取りできるわ」 「なんという盗作」 「人聞き悪いわね。まねをすることは最高のお世辞なのよ」 まあ服飾業界の流行ってのは、誰かがはじめてみながそれをまねして広がっていく感じだろうけど。 「ちょっと生地を買いに洋裁店に行ってくるわ。有希も一緒に来て」 副社長にして我が社のコスプレイヤーはいそいそとハルヒについていった。次はどんな衣装になるのか楽しみである。 「おはようございます」 「朝比奈さん、どうしたんですその格好は」 「これがどうかしたかしら?」 「だって昨日までOLっぽい服装だったでしょう」 それまで新聞を広げて読んでいた俺は、古泉と朝比奈さんのやり取りに目を上げた。そこには流行を二十年くらい先取りしそうな、フィギュアスケートとゴスロリを合体させたようなきわどい格好の朝比奈さんがいた。 「朝比奈さんはもうコスプレしないんじゃなかったですか」 長門のコスプレがあんまり似合うんで考え直したのか。 「これはコスプレじゃありません、時間常駐員の制服ですよ。昨日もこの格好だったじゃないですか」 朝比奈さんが怒ったように言った。 「え、いつからそんな」 「いつからって、わたしが十五歳のとき常駐員になってからずっとですよ」 いつもと違う朝比奈さんに妙な違和感を覚えて、俺は禁則中の禁則を破る質問をしてみた。 「ちなみに今は何歳なんですか?」 「今年で二十五よ」 俺とその他二人は顔を見合わせた。朝比奈さんの年齢って確か禁則事項だったんじゃないですか。 「そんなことはないわ。二二九二年三月九日生まれの二十五歳。ほら、ね」 図らずも急に解禁になった鮎漁を知った釣り人でもここまで驚いたりしないくらいに、正直、俺は驚いた。朝比奈さんの歳は俺にとっちゃ鉄の壁だったのに。 ちょうどそのとき、ドアが開いてハルヒが出社した。 「おっはよ。有希、新しいドレスできたわよ」 打ち合わせで遅れるとか言ってなかったかこいつは。 「いいじゃないの、これが新しい事業展開になるかもしれないんだし」 ハルヒがトートバックから取り出した長門の新しい衣装は、漆黒のワンピースに白の派手なフリルを飾りつけたものだった。 「……」 「これ、あたしが苦労して縫ったのよ」 見るからに未来の雑誌からパクったもんだが、これは萌えるに違いない。アニメのキャラクタが着そうなド派手で誇張されたデザインだった。 「あれれ、みくるちゃん。その衣装どうしたの?似てるわね」 ハルヒが長門のために縫製したというドレスに非常によく似ている。スカートの丈が短くなっただけで、そこは進化したと表現するべきか。え……、進化? ハルヒは早速長門に着せて、朝比奈さんと並べてみた。 「二人とも似合うわ。アニメキャラの姉妹みたいね」 「確かに。長門さんはボリュームのある衣装が、朝比奈さんは露出度の高い衣装が似合いますね」 「露出度って……あんまりはっきり言わないで」 朝比奈さんが裾を押さえて顔を赤くしていた。もう古泉も遠慮なしだな。 このとき、なにかがおかしいということに俺たちは気がついていなかった。 次の日のことだ。 「あ、朝比奈さん、その髪いったいどうしちゃったんですか!?」 あの美しい、少しだけカールした長い髪がバッサリと短くなってしまっている。もしかして失恋でもしたんですか。 「やだキョンくんったら。わたしは元々この髪型でしょ」 朝比奈さんが苦笑した。俺は口を開いて、もっと長かったでしょうと言おうとして、「も」のところでやめた。これはまずい。平安京でうぐいすが鳴かない規模の歴史を書き換える事態が起こっている。古泉と長門の表情を見ると、同じ危険信号が浮かんでいた。頭に回転灯を乗せたら黄色いやつがピコピコ回りそうだ。これはいったい何が起こっているんだ。 「朝比奈さん、その髪型が短くなった経緯を教えていただけませんか」 「ええっと、時間常駐員はみんな短めなんです。長い人は束ねるか、結うかしないといけないの」 「その規則が出来たのはいつなんです?」 「わたしがこの仕事に就いたときにはこうでした。生まれるずっと前のことだと思うわ」 「敢えてお聞きしますが、この会社は未来ではどうなるんです?」 「時間移動技術を管理していますよ。一社独占で涼宮さんが初代社長です。わたしはそこの社員です」 この言葉が朝比奈さんの口から出てくるとは。俺たちが知る朝比奈さんと一致しない。 「もっと早く気がつくべきでした……」 古泉が思案げに言った。 「どういうことなんだ?俺にも分かるように説明してくれ」 「……因果律が歪んでいる」 「僕たちが知っている朝比奈さんから、様子が少しずつ変化しています。つまり歴史が書き換わっていると」 それってハルヒのタイムカプセルのせいなのか。 「……それはまだ不明」 「原因を突き止めないといけませんね。朝比奈さんはこの時間平面に泊まっていないんですか?」 「ええと、夜は未来に帰って日報を出して、次の日の朝また時間移動でここに来ています。時差ボケにならないように」 「ということは帰った後の朝比奈さんが時間の歪みの影響を受けているということになりますね」 「なにか変なことありました?」 「ええ。いろいろと、僕たちが知っている朝比奈さんとはだいぶ変化しているように見受けられます」 朝比奈さんの赤道上にはクエスチョンマークの衛星がいくつも回っているようだった。時間の歪みの渦の中にいる本人が知るはずもあるまい。 「みんなぁ、おっはよ!」 全員がそっちを見た。ドアを開けて満面の笑顔で入ってきたハルヒの髪は、バッサリと短く切られた上に、目も覚めるようなオレンジ色に染め上げられていた。 「ハルヒ、何があったんだ。その髪どうしちまったんだ!?」 「なによ、雑誌に載ってたヘアスタイルにしてみただけよ」 美的レベルAランク以上の女三人がそろってショートカットになるという、前代未聞のハプニングを見たわけだが、俺と古泉は三人を見比べながら、これはこれで趣があっていいななどと呑気に感想を述べ合っていた。 「おはようございます」 「あらキョンくん、おはよう」 翌朝、珍しく朝比奈さんが一番に出社していた。メガネをかけてパソコンの雑誌を読んでいる。ハイヒールを脱いでこともあろうに俺の椅子の上に足を乗せていた。もしかしてこれもコスプレの一種なのだろうか、細い銀縁のメガネをかけたちょっとインテリっぽい朝比奈さんは萌えた。 「キョンくん、お茶お願い」 「え、は、はいはい」 もしかして今日はすごく機嫌悪いのかもしれないと、俺は給湯室でお茶を入れて朝比奈さんに差し出した。 「お、お口にあいますかしら……」 なんで俺が朝比奈さんの口調をまねしてるんだ。 「ありがとう。うん、よく煎れてあるわ」 ホッ。よかった。突然、ぬるい!とか叫んで湯飲みを放り投げられたらどうしようかと。 朝比奈さんは読んでいた今日発売の雑誌をぽいとくずかごに放り込み、パソコンのモニタに向かってタッチタイプでカタカタとなにかを入力していた。未来にはこんな古い技術のネットワーク機器は存在しなくて、いまいち使い方も分からないとか言ってませんでしたっけ。 「おは……」 「おは、」 「……」 長門に勝るとも劣らぬ超タイピングスピードでキーボードを叩く朝比奈さんを目にして、ハルヒも古泉も、それから長門も、ドアを開けるなり言葉を失っていた。いったい何事が起こったのかと俺に尋ねる視線をくれるが、肩をすくめるか首をかしげてみせるしかなかった。 全員が呆然と朝比奈さんを見つめるなか、まあそういう日よりなのだろうと各々の机で自分の仕事に目を戻した頃、部屋にうっすらと煙が漂い始めてそっちを見た。俺は我が目を疑った。こともあろうに朝比奈さんがくわえタバコでキーボードを叩いている。 あれ、ここ違うわ、これじゃ効率悪いわね、などとブツブツ呟いていた朝比奈さんが、灰皿がわりの空き缶にタバコを押し付けてから長門に言った。 「長門さん、バグ直しといたわ」 ええっ。今なんとおっしゃいました。 「……そんなはずはない」 「いえ、ここの入力のところね、引数の型にひとつだけ例外があるのよ」 「……むぅ」 「あらごめんなさい、余計だったかしら?」 「……あなたは正しい。修正に感謝する」 「ほかのソースも見ておくわ。余裕あったらリファクタリングもしといてあげる」 いったい何が起こったのであろうか。文系の俺のために自ら説明すると、リファクタリングというのはすでに動いているプログラムのソースコードを修正して、見た目の動作はそのままにパフォーマンスを上げたり最適化したりする手法を言う。つまり一度誰かが書いたプログラムを再設計して、もっと効率を上げようというとてつもなくめんどくさい作業なのだ。最初に書いた人も、自分が書いたソースコードを勝手にいじりまわされるのは感情的に嫌らしい。 ともあれ、問題は朝比奈さんが今までやったことがないようなことを平気でこなしていることである。 「朝比奈さんってプログラマだったんですか?」 「あら失敬ね。わたしはこれが本業じゃない。ソフトウェア開発技術者の資格も持ってるわ」 斜に構えた朝比奈さんは、いつもと違って新鮮だ。ってそういう問題じゃない。 「知らなかった。いつからそうなんです?」 「あれ?だって専攻で情報工学を勧めてくれたのキョンくんじゃない」 「そうでしたっけ?」 これはなんだかおかしいぞ。そんな歴史、どう考えてもありえん。 「朝比奈さ~ん、ケーキお持ちしました!」 開発部の連中が近所で買ってきたらしい箱入りケーキを朝比奈さんにうやうやしく献上した。 「あらありがとう。気が利くのね」 「いえいえ、朝比奈さんのためならたとえ火の中水の中」 お前らいつから朝比奈さんの親衛隊になっちまったんだ、長門はどうした長門は。と、長門のほうを見ると、うさぎに畑を荒らされて頭を抱える農民のようなありさまで机に突っ伏していた。 俺は緊急会議を開いた。 「朝比奈さん、たいへん申し上げにくいんですが、どうやら歴史がかなりの部分で歪んでいるようです」 「あら、それはどういう意味かしら?」 眉毛をピクリと持ち上げる朝比奈さんに、どういうと問い詰められて俺が言葉に詰まっていると古泉が助け舟を出した。 「まだTPDDは持っていますか?」 「TPDDってなにかしら」 あれれ、TPDDのない朝比奈さんってただの人じゃないですか。あ、今のは言い過ぎました。 「僕たちの知っている歴史では、朝比奈さんは未来から来た時間調査員のはずなんです」 「またそんな冗談を。古泉くんらしくないわ」 一笑に付す朝比奈さんだった。 「僕は至極まじめです。いいですか、このままですと朝比奈さんの存在そのものが危うくなってしまいます」 古泉の気迫に押されたのか、朝比奈さんは笑うのをやめた。 「ええっと、TPDDって何の略かしら」 「確かタイムプレーンデストロイドデバイス、だったと聞いています」 「タイムトンネル、なら知ってるけど」 「それは時間移動するためのものですよね?」 「ええ。未来では電車みたいにあちこちにターミナルがあって、そこから乗るの。でもわたしは調査員なんかじゃなくて、プログラマの仕事に来ただけよ」 「妙な具合になってますね」 「どういうことかしら?」 「朝比奈さんの記憶が大部分において変わってしまっている、ということです」 「なぜそんなことに?」 「たぶん涼宮さんのタイムマシンのせいではないかと」 古泉は同意を求めるように長門を見た。 「……そう。未来からの情報が漏洩したため、この時間軸の延長線上にある新しい過去が交錯している」 「長門さんまで。みんな、本気なのね」 「……涼宮ハルヒのワームホールが、未来におけるTPDDの開発を阻害している」 「ってことはワームホールが時間移動技術の代表格みたいになっちまうのか」 「……そう。STC理論のような技術理論は廃れてしまう未来になる」 困ったな。ハルヒが会議室の壁に穴を開けちまったときやばい予感はしていたんだが。 「しかし、今になってハルヒにやめろと言うとまた神人が暴れだすぞ」 長門は一言だけゆっくりと噛んで含めるように呟いた。 「……わたしが、守る」 「守るって、どうやるんだ?」 「……ワームホールを閉じる」 「閉じてもたぶん、涼宮さんは何度もワームホールを作るでしょう」 「そうだな。あいつがあきらめることはまずない」 「……ワームホールを二重化する」 「つまり?」 「……一旦向こう側に届いた物質は、即時に別のワームホールを通って戻ってくる」 「郵便があて先不明で戻ってくるアレか」 「……そう。……?」 俺の例えが微妙にズレていたようで、長門は首をかしげていたが。 「朝比奈さんにTPDDがないとすれば、どうやって未来へ行けますか」 「あら、タイムトンネルのターミナルはこのビルの屋上にもあるわ。わたしがパスを持っているから入れるわよ」 「そ、そうだったんですか。いつの間にそんなものが」 「パスがないと入り口が開かないようになってるの。過去から侵入されると困るらしいから」 なるほど、そのへんは用心しているわけだ。 「じゃあこうしよう。長門と朝比奈さんが未来へ行ってワームホールを閉じる。俺と古泉がワームホールに手紙を入れて確かめる」 「……分かった」 「その場合、時間移動技術の歴史上でワームホールの利用が終わってしまいますが、お二人は無事戻ってこれるんですか?」 「……問題ない。この流れが修正されれば、TPDDが戻るはず」 長門がOKを出したので俺たちはさっそく穴の封鎖に取り掛かることにした。長門と朝比奈さんを見送るために屋上まで行った。 ビルの屋上はガランとしてなにもなく、乾いた冷たい風が流れているだけだった。朝比奈さんがブレスレットをはめた左腕を空中にかざすと、丸いシャッターのような円盤が現れて真っ暗な穴がぽっかりと開いた。覗き込むとはるか下のほうに青白い光が渦巻いている。俺と古泉は底なしの穴に足がすくんで、うわと声を上げた。 「タイムトンネルよ。行き先を入力したからそのまま飛び込めばいいわ」 「えらく簡単なんですね。この技術が消えてしまうのはちょっともったいない気がしますが」 俺はいまさらなにを言ってるんだという目で古泉を見て、二人をせかした。 「朝比奈さん、じゃあよろしくお願いします」 「分かったわ」 「時計を合わせましょう。今から五分くらいしてからワームホールを閉じてください。長門、後を頼む」 「……分かった」 二人が穴の中へ飛び込むと、シャッターを切るように入り口は閉じた。その空間を手で触っても、もうなにもなかった。 「俺も行けばよかったかな」 「同感です。もったいないことをしましたね」 まあしょうがない。誰かが残って確かめないことには。 俺と古泉は会議室に戻った。 「ハルヒ、個人的にタイムカプセルの実験をしてみたいんだが」 「もう、あたしは洋服のデザインで忙しいのに」 計画どおり大理石を埋め込み、パテで隙間を詰めた。なんとかごまかしてハルヒにかしわ手を打たせ、部屋の外に追い出した。今ごろ向こうでは長門と朝比奈さんが、この同じ空間でワームホールを閉じているに違いない。どうだろう、ちゃんとうまくいっただろうか。 それから五分くらいして、白く光る人の形をした影が現れ、長門と朝比奈さんが戻ってきた。いつもの服装に戻っているところを見ると、どうやらTPDDは戻ったらしい。 「ただいまキョンくん、わたしなにかいろいろ変なこと言ってたそうね」 「いえいえ、たまにはああいうのもいいんじゃないでしょうか。新鮮でよかったですよ」 などと言いながら、もうあんな朝比奈さんは二度とごめんだという表情を隠し切れない俺だった。 「実は未来で長門さんに会ったの。わたしたちを待っていたみたい」 「なにか言ってましたか」 「……」 長門は俺の顔を見つめ、なにか言いたいことがありそうなのに言葉にならないような、複雑な表情をして口を開けてはやめ、口をパクパクしてなにかを言おうとしている。それ、禁則事項? 「長門、どうしたんだ?未来でなにかあったのか」 長門はいきなり走り寄り、飛び上がって俺に抱きついた。細い腕を背中に回してきつく抱きしめてきた。 「きゃっ、長門さんったら」 朝比奈さんが信じられないという様子で口に手を当てている。 「これはこれは、お熱いですね」 古泉がカメラを取り出して写真に収めようとしたのだが、朝比奈さんに睨まれてやめた。 「な、長門、み……みんなが見てるって」 かつてないほどの激しい長門の衝動に俺は戸惑って、顔が真っ赤になるのを感じた。でも、こういうところを長門が見せるのは嬉しかった。長門は俺の肩に顔を埋めてピクリとも動かない。俺はそのまま長門の体を抱えて、会議室のドアを背中で押して外に出た。その間にも長門は離れようとはしなかった。 ハルヒがぽかんとした表情で俺たちを見ていた。俺と目が合うと、顔を真っ赤にして、 「あ、あたしタバコ買ってくる。あたし吸わないんだったわ。じゃあハッカパイプとかシガレットチョコとかキセル乗車とか……」 意味不明なセリフをつぶやいて出て行った。 俺は長門が落ち着くまでじっと抱いていた。ほんのりとリンスの香りがする薄紫色の髪をなでた。未来でなにを見たんだろう。もしかして、俺が死んでたとか。 「なにを見たのか、話してくれ」 「……自分の、未来」 七年前、長門は自分で選択して異時間同位体との情報リンクを断った。それが久しぶりに未来を見たということなのだろう。 「なにを見たんだ?」 「……あなたと、わたし」 なるほどな。未来の俺が死にでもしたらたぶん、長門は今ごろ暴走している。この長門の反応は、俺が描いている二人の未来に近かったんだろう。俺は長門の耳元でささやいた。 「じゃあその未来は、俺には内緒にしといてくれ」 俺は俺で、自分の未来を作る。 「……分かった」 俺は唇で長門の頬に軽く触れた。どうやら感電はしなかった。 会議室のドアを開けると朝比奈さんと目がかち合った。俺も朝比奈さんも顔が真っ赤になった。 「あ……朝比奈さん」 「あ、あの、ごめんなさい、別に立ち聞きしてたわけじゃなくて……」 「すいません。長門が未来の俺たちを見て感激したらしくて」 「わたしも見ました。ちょっとうらやましかったですよ」 なにを見たのか気になるところだが、知らないほうがいいだろう。 「それで、わたしたちは涼宮さんに遭遇してしまったんです」 「見られたんですか」 「ええ。ちょうどタイムカプセルを開けようとしたところを見つかっちゃいまして」 「ありゃ。それで、うまくごまかせましたか」 「いいえ。向こうの涼宮さんはわたしたちがやっていることを既に知っていたみたいです。因果律が壊れ始めていることを伝えると、分かってくれました」 「ハルヒにしては物分りがいいですね」 「ええ。もうタイムカプセルを使って対話するのは中止することになりました」 「それはよかった。ハルヒも多少は成長したみたいですね」 「それから、これを言付かりました」 朝比奈さんは例のメモリカードを差し出した。 「未来の涼宮さんからの、最後のメッセージです」 俺は一度内容を確認したほうがいいかとも思ったが、いちおう私信なのでハルヒの机の上に置いておいた。 「返事が来たわよ!」 ハッカパイプを吸い込みながら戻ってきたハルヒが素っ頓狂な声を上げた。 「みんな、再生するわよ。はやく見に来なさい」 これを待ちあぐねていた四人がハルヒのパソコンの前に集まった。映像に映るハルヒは、いつもより少し落ち着いて見えた。 『あんたと話すのはこれが最後よ。実は社屋を引っ越すの。今度新しく研究施設を建てたの。SOS団時間移動技術研究所よ。ここのタイムカプセルは大家さんに見つかる前に埋め戻さないとね。ああ、別のタイムカプセルをまた作ろうなんて考えてもだめよ。未来の情報はタダじゃないの。あんたが自分で、苦労して手に入れるものよ』 未来の自分から説教めいたことを言われて、ハルヒは眉間にしわを寄せた。余計なお世話だと言いたいのだろう。 『でも安心しなさい、あんたがほんとに欲しがってたものはちゃんと手に入れたから。ねっ』 画面の中のハルヒは、カメラのこちら側にいるらしき誰かに向かって親指を立て、ウインクした。映像を見ていたハルヒの顔がぱっと輝いた。 「よかった。やっと手に入れたのね」久しぶりに見るハルヒの笑顔だった。 『ほら、恥ずかしがってないであんたも映りなさいよ。過去のあたしに見せてやりたいの』 そこからの映像は途切れて砂の嵐になっていた。ハルヒが画面をガンガンと叩いた。 「もう!いいとこなのに。どうなってんの、このパソコン」 「おい、そんなに叩くと液晶が割れるぞ」 「キョン、なんとかしなさい。続きを見たいのに」 ハルヒは夕方五時アニメの続きが待ちきれない子供のように俺をせかした。ファイルを開こうとするが、読み込みエラーが表示されるだけだった。どうやらメモリカードそのものが壊れているようだ。俺はなんとかならないだろうかと長門を見たが、そっぽを向いて我関せずを決め込んだ。あの映像の続きには、なにか見てはいけないものがあったらしい。 朝比奈さんにも聞いてみた。 「映像の続きは見ました?」 「いいえ。メモリカードを受け取っただけで」 「カメラのこっちにいたの、誰なんです?」 「分かりません。あらかじめ用意してあったみたいなの」 結局、ハルヒが欲しがってたものがなんだったのか、ハルヒ以外の誰にも分からずじまいだった。 「キョンくん、ひとつ忘れていました。メモリカードの中に時間移動基礎理論の論文が入っているはずなんです」 その後、メモリカードはどこへということもなく消えた。ロッカーにしまっておいたはずなのだが、なくしたのか誰かが持っていったのかは分からない。俺が覚えている限りでは、さらに過去へとタイムトラベルしたのだろう。あれがいつ誰を経由してハカセくんの元に戻ってくるかは分からないが、今現在はとりあえず必要ないんだと思う。 エピローグへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1023.html
第三章 7月7日…とうとうこの日が来てしまった。 俺は何の対策も考えていない。 何かいい考えは無いかと考えている間に午前の授業が終わった。 昼飯は一年の時と同様谷口や国木田と食べている。 卵焼きを突いていた谷口がこんなことを言い出した。 「涼宮って去年の7月7日おかしくなかったか?俺学校の帰り道で東中の前通るんだけどさ、 俺去年の七夕の日学校が終わってゲーセンによってから帰ったんだ。たしか8時ごろ、 東中の前を通ったら涼宮が校庭でずっと立ってたんだ、しかも雨が降ってたのに傘もささずに。あれなんか意味あるのか?あいつのやることはやっぱよくわからん。」 「ふ~ん、そうか」俺は平然を装った。なんとなく動揺しているのを見られるのはまずい気がした。 心の中では適当に済ませばいいなんて考えていた俺をもう一人の俺が殴っていた。俗に言う心の中の天使と悪魔と言うやつである。 そして悪魔のほうが天使にぶっ飛ばされたわけだが、天使が勝ったところでどうにかなるわけでもなく俺は途方に暮れていた。 午後の授業もあっという間に過ぎ、とうとう部活の時間だ、今日だけはあいつと顔を合わせたくないのだが行かないほうがめんどくさいことになる気がするので文芸部室へと足を運んだ。 すると足取りが重かったせいか俺が部室に着く時には全員がそろっていてハルヒが嫌な笑みを浮かべた。 この瞬間俺は背筋が凍りつくような寒気を感じた。 このときの俺はこれから何が起こるかなんて知るよしも無かった。 ハルヒは全員がそろったと言うことでこう言った。 「今日は七夕で不思議も油断しているかもしれないわ!今日はこれから久しぶりに市内探索しましょ!!」 なんだって?最近驚いてばかりってのに驚きだ。市内探索?今から? 実は今までに5回市内探索が行われたのだが、結局一度もハルヒとなることは無かった。 そしてハルヒは例のごとくどこにしまっていたのか爪楊枝を取り出し例のごとく俺たちは爪楊枝を引いた、 そして驚いたなんと俺とハルヒがペアになっていたのである。 その瞬間明らかに長門、古泉両名の顔が明らかにゆがんだ。 ハルヒは言った。「何であんたとペアなのよ。まあいいわ、足手まといにならないようにしなさいよ!」いかにもハルヒらしい発言が聞けて俺は安心した。 「わかってるよ。」そう言い返しておいた。俺はなんかうれしいかった、それが何故かはわからないが。 そして夕方5時過ぎに俺とハルヒは学校を出た、そして行くあてはあるのかと聞いてみたするとハルヒは当然のように「東中。」 俺はそうか何しに行くんだ?とわざと聞いてみた。 するとちょっと怒ったように「あんた昨日の話聞いてたの?あたしは人を探しているのよ!」と答えるハルヒ。 俺は何故か行ったらまずい様な気がした、しかし断る理由も無く、思いつきもしなかったため「冗談だ、なら急ごう」そう言ってハルヒの前を歩いた。 北校から中学まで30分ほどで着いた。着いたはいいがまだ部活やら補修やらで残っている生徒がいるようだこれでは中に入れない。 「どうする?ハルヒ。」と聞いてみる。 「そうね、今入るのはまずいわねどこかで時間を潰しましょう。近くにちょうどいい公園があるわ、そこに行きましょう。」 あの変わり者のメッカか…こいつも好きらしいな断る理由も無い。 「わかった。」と答えた。 公園に着くと二人でベンチに座った。傍から見れば完全にカップルだ。 お似合いに見えるかは置いといてだな。 「だいだい8時ぐらいまでは待ってなきゃだめだろうな。」と俺。 「そうね、後2時間ぐらいね」とハルヒ。 「なんか話しでもするか。」 そして俺たちはしゃべり続けた。 新しいクラスがつまらないこと、朝比奈さんのコスプレ衣装の希望、これからのSOS団の活動内容について、新しい担任がむかつく事 そしてあっという間に2時間が過ぎた。 ハルヒが時計を確認し「そろそろ時間よ、行きましょう」そして後についていく俺。 学校に着くとさすがに真っ暗で携帯のライトで周りを照らした。 そしてこの後俺は信じられない光景を目の当たりにする ハルヒがライトを向け俺の名前を呼ぼうとしたときだ。 「キョ… 涼宮ハルヒがいきなり倒れたのだ、俺は焦った。 こんなに焦ったのはハルヒが消失しちまったとき以来だ。 焦りながらも俺は古泉に電話を掛けた、後から考えればナイスな判断だったと思う。 「古泉!!ハルヒが倒れた!!!!」 「どうしました落ち着いて下さい。」 「北校でハルヒが倒れたんだよ!!」 「わかりました15分…いや10分で向かわせます。」 「わかった。早くしてくれ」 こんな感じだったと思う、あまり覚えていない。 たぶん10分ぐらいで救急車が着たんだろうが俺には3倍ぐらい長く思えた。 そして機関御用達の病院にハルヒは検査入院ということで入院した 第四章
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/135.html
涼宮ハルヒの驚愕(前) 以下のデータは、前後編であることが発表される前のものが含まれています。 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:2011年5月25日(初回限定版)(当初予定は2007年6月1日発売予定だったが、その後発売延期となる。しかし、『ザ・スニーカー2010年6月号』にて一部先行掲載が行われた。) 初回限定版は5月25日、通常版は6月15日発売予定である。 本編ページ291P 表紙絵:涼宮ハルヒ(ザ・スニーカー2007年6月号付録の付替えカバーは朝比奈みくる) タイトル色:橙色(付替えカバーは緑色、全体色も緑色) 初出:書き下ろし 初出順第27話 裏表紙のあらすじ紹介 SOS団の面々が学年を上げたといって俺の魂に安寧が訪れることもなく、春らしい話題であるはずの旧友との再会についてはやっかいな事態の来訪を告げただけだったが、これらが引き起こすであろう事件は不確定な未来でしかありえなく、かつ過去に起きたことも磐石の一枚岩ではないという疑惑を振り払えず、つまり何が言いたいかというと面倒な立場に追い込まれてこんな独り言をぼやいてる俺の身になってほしいってことだの第10巻!涼宮ハルヒの驚愕付替えカバー(ザ・スニーカー2007年6月号付録)の裏表紙より。没バージョン。 SOS団の最終防衛ラインにして、その信頼性の高さは俺の精神安定に欠かさざる存在であるところの長門が伏せっているだと?原因はあの宇宙人別バージョン女らしいんだが、そいつが堂々と目の前に現れやがったのには開いた口も塞がらない心持ちだ。どうやら、こいつを始めとしたSOS団もどきな連中は俺に敵認定されたいらしいな。上等だ、俺の怒髪は天どころか、とっくに月軌道を越えちまってるんだぜ?待望のシリーズ第10巻! 目次 第四章・・・Page5 第五章・・・Page68 第六章・・・Page189 アニメ 全編未アニメ化 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第17巻に収録第82話『涼宮ハルヒの驚愕I』(P5-P40、何も起こらず通常通りに学校生活を送る(α7)SOS団が長門のマンションに向かう途中からキョンと九曜の会話中に朝倉が乱入する場面(β7)) コミックス第18巻に収録第83話『涼宮ハルヒの驚愕II』(P40-P60、朝倉がキョンにナイフを突きつけるシーンから九曜朝倉喜緑江美里が立ち去ったのちキョンが誰かからの『面白い冗談だわ・・・』という言葉を聞く場面まで。(β7)) 第84話『涼宮ハルヒの驚愕III』(P60-P102、長門のマンションへ戻るところから佐々木の留守電を受ける(β7)第5章の最初から入部試験のペーパーテストを終えた場面α8最後まで(α8)) 第85話『涼宮ハルヒの驚愕IV』(P102-P149、β8の最初から(火曜日朝)キョン・佐々木・橘・藤原・周防との喫茶店の会合で藤原の『好意で言ってやっている』後の九曜が発言するまで(β8)) 第86話『涼宮ハルヒの驚愕V』(P149-P169、キョン・佐々木・橘・藤原・周防との喫茶店の会合で佐々木の状況整理から佐々木・九曜・キョンが谷口と国木田に会うまで(β8)) 第87話『涼宮ハルヒの驚愕VI』(P169-P227、佐々木・九曜・キョンが谷口と国木田に会うところから、国木田・九曜と佐々木キョンの会話を経てキョンと佐々木の九曜についての特性について会話をする(β8)第6章に入り新入団員試験第一次適性検査を行うも、合格者が一人出るところまで(α9)) コミックス第19巻に収録第88話『涼宮ハルヒの驚愕VII』(P227-P282、新入団員試験合格者のヤスミが退出するところからヤスミの秘密に疑念を抱くキョンの場面(α9)β9の最初のキョンと国木田の会話から、キョンの家に佐々木が訪ねてきて佐々木が会いに来た目的を話す場面まで) 第89話『涼宮ハルヒの驚愕VIII』(P282-P295、キョンの家に佐々木が訪ねてきて佐々木が会いに来た目的を話す場面から(β9)佐々木が帰るまで(最後まで以降は驚愕後編へ)) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 朝比奈みくる 古泉一樹 長門有希 周防九曜 朝倉涼子 喜緑江美里 佐々木 橘京子 周防九曜 藤原 渡橋泰水(ヤスミ、わたぁし) ハルヒの母親(会話の内容のみ) あらすじ 長門有希が学校を休んでいることが分かったSOS団は、長門のお見舞いに行き、世話をすることになる。 しかし、長門は「心配するな」とキョンの携帯にメールを送る中で休止状態に入ってしまう。 キョンが怒りに任せてマンションを飛び出すとそこには九曜がいた… 後に繋がる伏線 刊行順 ←第9巻『涼宮ハルヒの分裂』↑第10巻『涼宮ハルヒの驚愕(前)』↑第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)』→